馬印うまじるし)” の例文
うるう五月十六日、将軍はついに征長のために進発した。往時東照宮が関ヶ原合戦の日に用いたという金扇の馬印うまじるしはまた高くかかげられた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
位置をかえて、城頭から望めば、駸々しんしんと迫って来る兵馬の奔流と、千瓢せんぴょう馬印うまじるしは、さらに、手に取るように見えているはずである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬印うまじるし旗指物はたさしものがこゝに置いてあるところをみれば、ひょっとすると弾正政高は城攻めの手に交っていないで、此の陣小屋の奥の一と間に寝ているのかも知れない。
辻駕籠をはじめてからもう半年近くになるが、いっこう芽が出ないというのも、いわば因果応報いんがおうほう。アコ長のほうは、先刻ご承知の千成瓢箪せんなりびょうたん馬印うまじるしのような奇妙な顔。
雁木坂加番小笠原は、自分の詰所の前の雁木坂に馬印うまじるしを立ててゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
藤吉郎は、洲股すのまたへさして帰城した。この戦から、彼は初めて、馬印うまじるしを主君からゆるされた。行軍の秋をてらてら耀かがやいてゆく竿頭かんとうの一ぴょうがそれであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高く掲げた紅白の旗、隊伍を区別する馬印うまじるしなどは、馬上の騎士が携えた抜き身のやりに映り合って、その無数の群立と集合との感じが一行の陣容をさかんにした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さんとして、朝空に誇っている馬印うまじるしの一つは、明らかに、敵方の将校、木下藤吉郎の陣地を証明しているものだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金扇の馬印うまじるしを高くかかげて出発して来た江戸の方には、家茂公いえもちこうを失った後の上下のものがそでに絞る涙と、ことに江戸城奥向きでの尽きない悲嘆とが、帰東の公儀衆を待っていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
五十騎、或いは百騎を従え、ときには子ども(小姓)も連れ、長柄ながえの大傘をかざさせ、燦々さんさんと、馬印うまじるしを立てて練り歩く彼の「御通過」を仰ぐと、味方の兵は
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民家は一斉に業をめて軒ばをきよめ、かりそめのみ事にも気をつかってその門出かどでを見送り、兵は旗幟きし馬印うまじるしを護って陣列を作り、将は威武を飾って、一鼓六足いっころくそく
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「地の利は、官兵衛が明るく、兵の進退には、竹中半兵衛が詳しい。何か憂えんじゃ。秀吉はただ床几しょうぎを進めるばかりよ。この金瓢きんぴょう馬印うまじるしは、ふたりの案内でどうにでもくぞ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつものように、傘、馬印うまじるし、以下五十騎ほど連れて陣廻りをして来たもどりである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オオっ。今浜いまはまの砂丘に、鍾馗しょうきのお馬印うまじるしが見えるわ! まさしく、金沢表のお味方が参られたぞっ。おおうい! みんなあ! よろこべ、よろこべ。われらの援軍は、今浜まで来ているぞ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この度はもう一城のあるじとゆるされ、領地も五万石ほどはあり、なお馬印うまじるしまで御主君より賜わったからには、もう母上様をお側に迎えてもよいように考えるから、そなたからおすすめして、是非
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝五の前には、金色こんじききね馬印うまじるしが、近々と揺れて来るのが見えた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)