饅頭笠まんじゅうがさ)” の例文
米友は依然として米友、車を曳かないだけの米友ですが、美少年は饅頭笠まんじゅうがさに赤合羽といったような、素丁稚姿すでっちすがたにすっかり身を落している。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
丁度、直江津の二番が上って来た時で、その男が饅頭笠まんじゅうがさを冠って、踏切のところに緑色の旗を出していやしたよ。え——君はその番人をどんな男だと思うえ。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
脊割羽織せわりばおり無反むぞりの大小を差し、水口みなくち或は八丈の深い饅頭笠まんじゅうがさかぶって顔を隠したる四五人の侍がまいりました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斑竹ふちくの皮の饅頭笠まんじゅうがさに、軽そうな、燕色つばめいろ合羽かっぱを引ッかけ、後ろ向きになって、汁まで飲みほした上に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風呂敷包ふろしきづつみを斜に背負い、その頃よく来た托鉢僧たくはつそうのような饅頭笠まんじゅうがさを深々とかぶり、手縫いの草履袋を提げた私の姿は、よほど妙であったらしく、兄たちはきのこのおばけだとか
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
人力車を一台い、長袖の法被はっぴ長股引ながももひき、黒い饅頭笠まんじゅうがさといういでたちで、南地溝の側の俥夫しゃふの溜り場へのこのこ現われると、そこは朦朧俥夫もうろうしゃふの巣で、たちまち丹造の眼はひかり
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
深い饅頭笠まんじゅうがさ雨合羽あまがっぱを着た車夫の声が、車軸しゃじくを流す雨の響きの中に消えたかと思うと、男はいきなり私の後へ廻って、羽二重はぶたえの布を素早く私の両眼の上へ二た廻り程巻きつけて
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と初さんは饅頭笠まんじゅうがさとカンテラを渡した。饅頭笠と云うのか筍笠たけのこがさというのか知らないが、何でも懲役人のかぶるような笠であった。その笠を神妙しんびょうに被る。それからカンテラをげる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田植時分たうえじぶんには、雨がしょぼしょぼと降って、こねかえした田の泥濘どろの中にうつむいた饅頭笠まんじゅうがさがいくつとなく並んで見える。いい声でうたう田植唄も聞こえる。植え終わった田の緑は美しかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
私はほろうちに小さくなっていますと、車夫くるまやはぼとぼとぼとぼと引いて行きましょう、饅頭笠まんじゅうがさをかぶってしわだらけの桐油合羽とうゆがっぱをきているのですが、雨がたらたらたらたら合羽から落ちましてね
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
不思議と草鞋穿わらじばきで、饅頭笠まんじゅうがさか何かでって見えてさ、まあ、こうだわ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ、饅頭笠まんじゅうがさに赤合羽といういでたちで大小二人の者が、突然にやって来て、たまりの前で合羽をとると、警板をカチカチと打つ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と足早に追い着いたところで、振り顧ると右の一人が、慌てて、饅頭笠まんじゅうがさのツバを持って顔を隠した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある雨の降る日余はこの玄関に上って時間の来るのを待っていると、黒い桐油とうゆを着て饅頭笠まんじゅうがさかぶった郵便脚夫が門から這入って来た。不思議な事にこの郵便屋が鉄瓶てつびんげている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一方、宇治山田の米友に至ると、めくらじまの筒っぽはいつも変らないし、これは竹の皮の饅頭笠まんじゅうがさをかぶっているが、この男が饅頭笠をかぶることは珍しいことではない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と独りごとにじれて、饅頭笠まんじゅうがさを持ったまま広い空地へさまよいだした。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身には饅頭笠まんじゅうがさと赤合羽で、片手には「六所明神社務所」の提灯を持ち、片手には夜番の者が持つような六尺棒をついて、刀脇差は合羽の下に隠し、木馬もくばから御宮おんみや、本社を一廻りして
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「竹の饅頭笠まんじゅうがさで、いやはや、御粗末なもので失礼ですが、お言葉に従いまして」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)