青褪あおざ)” の例文
この時、またも闇の中に、ポツリと一点燐光のような青褪あおざめた円光が浮かんだが、図太い男の破鐘われがね声がすぐとそこから聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
下唇をギリギリと噛んだまま見る見るうちに青褪あおざめて行くうちに、白い眼をすこしばかり見開いたと思うと、ガックリとあおむいた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見ると紳士の顔にもしたたか泥が付いて、恐ろしい争闘いさかいでもした跡のよう、顔は青褪あおざめて、唇には血の気の色もない、俯向いてきまりが悪そうにしおれている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
都会の建物の死面に女達は浮気な影をうつして、唇の封臘ふうろうをとると一人の女が青褪あおざめた朋輩に話しかけた。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
びんのほつれ毛青褪あおざめた頬を撫で、梨花一枝りかいっし雨を帯びたる風情ふぜいにて、汽車をでて、婿君に手を引かれて歩く足さえはかどらず、雪駄せったばかりはチャラチャラと勇ましけれど
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この大空襲の報を耳にした帝都の住民の顔色は、其の場に紙の如く青褪あおざめたであろうか。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「真実に大丈夫でしょうか」浅田は妻の青褪あおざめた顔を見て、もう一度訊ねた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
青褪あおざめた顔には額まで髪が掩被おっかぶさって眉毛は太く眼の光は異様に輝いていた。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
山本医師の顔は土のように青褪あおざめ、額から汗がばらばら流れた。
愚人の毒 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ピタリと指したのは、捨吉の青褪あおざめた顔です。
と、娘は青褪あおざめたひたいもたげて云った。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
如何に/\と詰め寄れば、さしもに剛気無敵の喜三郎も、顔色青褪あおざまなこ血走り、白汗はっかんを流してあえぐばかりなりしが、流石さすがに積年の業力ごうりき尽きずやありけむ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
帆村は死人のように青褪あおざめ、この奇妙な分捕品を気味わるげに見入った。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と云いさして私は口籠くちごもった。形容の出来ない昂奮に全身が青褪あおざめたように感じつつかろうじて唇を動かした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云い云い母親は、こころもち青褪あおざめた顔をして、チエ子の大きな眼をイマイマしそうに見つめていたが、やがて、急にわざとらしくニッコリして手を打った。
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
事務室の方向を鼈甲縁越しにジイッと見ていたが、そのまま非常に緊張した、青褪あおざめた顔をして云った。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
青眼先生はここまで云って来ますと、忽ちブルブルと身ぶるいをしてきっと王宮の方を眺めました。その顔は見る見る青褪あおざめて、眉を釣り上げ唇を噛み締めました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
青褪あおざめた月の光りと、屍体の山と、たまらない石油の異臭……屍臭……。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
睦田老人は病人のように青褪あおざめたまま事務室をよろめき出た。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし彼はモウ汗も出ないほど青褪あおざめ切っていた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)