鍬形くわがた)” の例文
その一つは、萌黄匂もえぎにおいよろいで、それに鍬形くわがた五枚立のかぶとを載せたほか、毘沙門篠びしゃもんしのの両籠罩こて小袴こばかま脛当すねあて鞠沓まりぐつまでもつけた本格の武者装束。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
典厩信繁、その日のよそおいは、の花おどしの鎧に、鍬形くわがたのかぶとを猪首いくびに着なし、長槍を小脇に、甲斐黒の逸足にまたがっていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舌長姥思わず正面にその口をおおう。侍女等忍びやかに皆笑う。桔梗、鍬形くわがた打ったる五枚しころ、金の竜頭たつがしらかぶとを捧げて出づ。夫人と亀姫の前に置く。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
緋縅ひおどしよろい鍬形くわがたかぶとは成人の趣味にかなった者ではない。勲章も——わたしには実際不思議である。なぜ軍人は酒にも酔わずに、勲章を下げて歩かれるのであろう?
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日でも骨身ほねみみるようにその時心配をした事を記憶しておりますが、実は、聖上御覧の間に、楠公の甲の鍬形くわがたと鍬形との間にある前立まえだての剣が、風のために揺れて
その日の装立いでたちは、かちんに白と黄の糸で千鳥が岩に群れ遊んでいる直垂、紫裾濃むらさきすそごの鎧、鍬形くわがた打った兜の緒をしめ、黄金作こがねづくりの太刀、切斑きりふの矢二十四本を背に、重籐の弓を持ち
雄風あたりを払うばかり、まことに堂々と立派であったが、やはり扮装からいう時は、あまり綺麗だとは云われなかった。甲は確かに戴いていた。しかも鍬形くわがたの甲であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
卯の花おどしの鎧に錆色の星冑鍬形くわがた打ったのを着け、白旗の指物なびかせたおい武者がある。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
貞世を見つめているうちに、そのやせきった細首に鍬形くわがたにした両手をかけて、一思いにしめつけて、苦しみもがく様子を見て、「そら見るがいい」といい捨ててやりたい衝動がむずむずとわいて来た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
紫裾濃むらさきすそごの鎧を着こみ、鍬形くわがた打った兜のをしめ、腰に黄金こがね作りの太刀、背に切斑きりふの矢二十四本を負い、かいこむ重籐の弓は鳥打の下を広さ一寸ばかりに切った紙で左巻きに巻いてある。
寄せ手の軍勢は固唾かたずを呑み、憐れ憐れと見ている時、城の大手の門を開けて駈け出したる武者一騎、鍬形くわがた打ったかぶとをつけ、紫裾濃むらさきすそごよろいを着て、大身おおみの槍を打ち振り打ち振り、大軍の中に駈け入ったが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
赤地錦の直垂ひたたれ紫裾濃むらさきすそごよろいを着け、鍬形くわがた打ったかぶとをしめ、黄金こがね作りの太刀たちいた、天晴れ大将軍の姿で、重籐しげとうの弓の真中あたりを握りしめ、沖の平家に向って、大音声で名乗りをあげた。
赤地の錦の直垂ひたたれ萌黄縅もえぎおどしの鎧を着け、鍬形くわがた打った兜の緒をしめ、黄金こがね作りの太刀に、切斑きりふの矢、重籐しげとうの弓という装立ちで、連銭葦毛の馬に、金覆輪の鞍を置き、人目をひく颯爽さっそうたる姿で立ち現れた。