そら)” の例文
図書 わたくしこぶしに据えました、殿様が日本一とて御秘蔵の、白い鷹を、このお天守へそらしました、その越度おちど、その罪過でございます。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今度は、それが実に明白であるように私にも思われたので、彼がどうして彼等の怒りをそらせられるか私には想像がつかなかった。
立派な日本人ですが、さすがに混血児あいのこの父親だけあって、海外生活でも送った人らしく人をそらさぬゆったりとした応対でした。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
さしては相手のはらを見、一手むくいては相手の意をそらしてうそぶき——いわゆる七分三分のかねあいの状態が——天正十一年から十二年に入ろうとする期間の
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或ひは窓外へ眼をそらして、晴れた日の、又薄曇りの坂下から、坂の上へ流れて行く静かな風景を拾ふのである。
森「こりゃア有難い、これはどうもお前さんのような御気性な人はねえや、ちょくで人をそらさないようにして…あなたのとこの旦那はお堅うござえやすねえ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その無心な鮮かさ、浄らかさが、異様に伸子の心をいたませた。彼女は眼をそらすようにして通り過ぎた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
純一は一寸不意に出られてまごついたが、主人の顔を仰いでいる目はそらさなかった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
圭一郎は曖昧あいまいに答へをそらして、いい加減に胡麻化した。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「そんな代物しろものじゃねえ。」と小野は目をそらして笑った。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
新しい目をそらさうとして
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
其のくちばしそらし給へ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
と、やがて戻って来ると、用が済んでほっとしたといわんばかりの面持おももちで膝掛けを引き寄せながら途端に彼女と眼が合った。にっこりとえくぼを刻んで、人をそらさぬ調子で話しかけてくる。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、小六は鉄砲から眼をそらして、うしろに控えている彼を呼んだ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼をそらし、物懶ものうげに居隅にうずくまっていようとするのである。
アワァビット (新字新仮名) / 宮本百合子(著)