貧窮ひんきゅう)” の例文
この大学生は東京とうきょうに在学中、その郷里の家が破産をして、そのめ学資の仕送りも出来ないようなわけになって、大変困る貧窮ひんきゅうなことになった。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
それに又、己は幼い時分から、極度に貧窮ひんきゅうな家庭の暮らしを見て居たので、生活難の問題が非常に鋭く頭を刺戟した。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これではいたるところ、人民たちがいて食べる物がないほど貧窮ひんきゅうしているらしい。どうかこれから三年の間は、しもじもから、いっさい租税そぜいをとるな。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
官兵衛は、このお坊さんにも、薫陶くんとうをうけた。父の宗円が、まだ城持ちともならず、浪人の生業なりわいに目薬など売りひさいだ貧窮ひんきゅう時代からそう後のことでもない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貧窮ひんきゅう病弱びょうじゃく菲才ひさい双肩そうけんを圧し来って、ややもすれば我れをしてしりえに瞠若どうじゃくたらしめんとすといえども、我れあえて心裡の牙兵を叱咤しったして死戦することを恐れじ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
貧窮ひんきゅう友人ゆうじん扶助たすけあたえぬのをはじとしていたとか、愉快ゆかい行軍こうぐんや、戦争せんそうなどのあったこと、面白おもしろ人間にんげん面白おもしろ婦人ふじんのあったこと、また高加索カフカズところじつにいい土地とち
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こうした貧窮ひんきゅうの間にもなお、私をその昔のままの気位きぐらいで育てたのに違いなかったのである。
今夜わたしのやしきには貧窮ひんきゅうであった時代の友だちが集まって、いっしょに洗礼式せんれいしきいわおうとしている、わたしの書きつづった少年時代の思い出は一さつの本にできあがっていた。
そうして当事者の努力はどうしたらこの島々を貧窮ひんきゅうから救うことが出来るかということに注がれて来ました。なるほど地域は狭く物資は乏しく、大きな産業が起り難い所といえましょう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
と源十郎は、口から出まかせにさもしんみりとして見せるが、一生そばへおいて——と聞いて、貧窮ひんきゅうのどん底から下女奉公にまで出ているおさよの顔にちらりと引きしまったものが現われた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わずかの月日の内に三度まで葬儀を営める事とて、本来貧窮ひんきゅうの家計は、ほとほとせんすべもなき悲惨のふちに沈みたりしを、有志者諸氏の好意によりて、からくも持ち支え再び開校の準備は成りけれども
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
長い説教ではなかったが神の愛、貧窮ひんきゅうの祝福などを語って彼がアーメンといって口をつぐんだ時には、人々の愛心がどん底からゆすりあげられて思わず互に固い握手をしてすすり泣いていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)