薄曇うすぐもり)” の例文
干してある赤い布や並べた鉢物のみどりが、光線のやわらか薄曇うすぐもりの昼過ぎなどには、汚れた屋根と壁との間に驚くほど鮮かな色彩を輝かす。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まわりはしんとして、薄曇うすぐもりのした空の下に、水の流れる音も聞こえない。馭者の喧嘩の声はまだ聞こえる。
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
まだあかつきしらけた光が夜闇よやみきぬわづか穿うがつてゐる時で、薄曇うすぐもりの空の下、風の無い、沈んだ空気の中に、二人は寒げに立つてゐる。英太郎えいたらうは十六歳、八十次郎やそじらうは十八歳である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
岐阜ぎふではまだ蒼空あおぞらが見えたけれども、後は名にし負う北国空、米原まいばら長浜ながはま薄曇うすぐもりかすかに日がして、寒さが身に染みると思ったが、やなでは雨、汽車の窓が暗くなるに従うて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ドンヨリと薄曇うすぐもりの天候であったし、日の短い頃なので、附近の時計店の屋根の大時計は、まだ四時少し過ぎたばかりだけれど、道行く人の顔もおぼろに、火ともし前の、最も陰気なひと時であった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山や花色なる雨の薄曇うすぐもり 昌休しょうきゅう
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
岐阜ぎふでは蒼空あをそらえたけれども、あとにし北国空ほくこくぞら米原まいばら長浜ながはま薄曇うすぐもりかすかして、さむさがみるとおもつたが、やなではあめ汽車きしやまどくらくなるにしたがふて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)