若干そくばく)” の例文
それに応じないと見ると急に居丈高になって私から金を出させようと恐喝したり、あるいは自分の窮状を並べ立てて若干そくばくの無心をしたりする。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
何とは云はん、われにして、若し若干そくばくの富を抛たしめば、今宵を待たず、君と共に一杯の美酒を傾け得べしと思ひぬ。
舞姫 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なほ彼は色を以て富貴を得たる人たちの若干そくばくを見たりしに、そのかたちおのれかざるものの多きを見出みいだせり。あまつさへ彼は行く所にその美しさを唱はれざるはあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこへちょうど馬方が来ましたから、その馬方に若干そくばくの金をやって馬に乗せてもらったです。それから進んで一里ばかり行きますとチュスルという駅に着きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
人目ひとめ附易つきやす天井裏てんじやうゝらかゝげたる熊手くまでによりて、一ねん若干そくばく福利ふくりまねべしとせばたふせ/\のかずあるのろひの今日こんにちおいて、そはあまりに公明こうめいしつしたるものにあらずや
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
あのせた土の上でどうしようこうしようと踏ン切りわるくうっ屈していた若干そくばくの日に、こちら側——イシカリ川のこちらでは、ひろい原野が息づく間なく伐りひらかれていたのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
二人は二人の月給を机の上にごちゃごちゃにぜて、そのうちから二十五銭の月謝と、二円の食料と、それから湯銭若干そくばくを引いて、あまる金をふところに入れて、蕎麦そば汁粉しるこ寿司すしを食い廻って歩いた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
呶鳴どなり付けようとしたマジャルドーをとめて、私はこれに若干そくばくを与えたが、もちろんあの時分から私は、フロールを決して憎んではいなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
更に見よ、漆のやうに鮮潤つややかなりし髪は、後脳のあたり若干そくばくの白きをまじへて、額に催せししわの一筋長くよこたはれるぞ、その心のせばまれるひだならざるべき、いはんや彼のおもておほへる蔭はますます暗きにあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
マジャルドー氏に扮して初めてお宅へ伺いました折りに、独断ではありますがユアンに若干そくばくの金を与えて、母親の許へ見舞いに行くことを話してやりました。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
海上風波の難にへる時、若干そくばくの油を取りて航路にそそげば、なみくしくもたちましづまりて、船は九死をづべしとよ。今この如何いかにともべからざる乱脈の座中をば、その油の勢力をもて支配せる女王によおうあり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)