艇庫ていこ)” の例文
残暑の夕日がひとしきり夏のさかりよりもはげしく、ひろびろした河面かわづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まっしろなペンキ塗の板目はめに反映していたが
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
言問こととい桟橋さんばしには、和船やボートが沢山ついているらしい。それがここから見ると、丁度大学の艇庫ていこに日を遮られて、ただごみごみした黒い一色になって動いている。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
舟も艇庫ていこから出し、此の土地の巡査なども監督の為に出張して居る、最う大方着手する所だろう
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
艇庫ていこには、もう、てしまった艇番夫婦ふうふをのぞいては、だれ一人いなくなっています。二階にあがり、念のため押入おしいれをさがしてみましたが、もとより、あろうはずがありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
八百松やおまつから言問ことゝい艇庫ていこの辺へ暖かそうな霞がかゝり、対岸の小松宮御別邸を始め、橋場、今戸、花川戸の街々まで、もや/\とした藍色の光りの中に眠って、其の後には公園の十二階が
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
残暑ざんしよ夕日ゆふひが一しきり夏のさかりよりもはげしく、ひろ/″\した河面かはづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まつしろなペンキぬり板目はめに反映してゐたが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
隅田川すみだがわでの恋人、「さくら」が、一足先きに艇庫ていこに納まり、各国の競艇のなかに、一際ひときわ優美エレガント肢体したいつややかに光らせているのをみたときは、なんともいえぬ、うれしさで、彼女のお腹を
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
晴れ渡った空の下に、流れる水の輝き、堤の青草、その上につづく桜の花、種々さまざまの旗がひらめく大学の艇庫ていこ、そのへんから起る人々の叫び声、鉄砲のひびき渡船わたしぶねから上下あがりおりする花見の人の混雑。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
晴れ渡つた空の下に、流れる水の輝き、つゝみ青草あをくさ、その上につゞくさくらの花、種々さま/″\の旗がひらめく大学の艇庫ていこ、そのへんからおこる人々のさけび声、鉄砲のひゞき渡船わたしぶねから上下あがりおりする花見の人の混雑。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
橋場辺の岸から向岸を見ると、帝国大学のペンキに塗られた艇庫ていこが立っていて、毎年つつみの花の咲く頃、学生の競漕きょうそうが行われて、艇庫の上のみならず、そのあたり一帯が競漕を見にくる人で賑かになる。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)