腰蓑こしみの)” の例文
船にはきっと腰蓑こしみのを着けた船頭がいて網を打った。いなだのぼらだのが水際まで来て跳ねおどる様が小さな彼の眼に白金しろがねのような光を与えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
屋根へ手をかけそうな大蛸おおだこが居るかと思うと、腰蓑こしみの村雨むらさめが隣の店に立っているか、下駄屋にまで飾ったな。みんな極彩色だね。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこらにあった腰蓑こしみのをまとって、散所者の舟人ふなびとに似せた姿も、それらしい。たちまち出屋敷の水門を離れ、舟は一と筋の川へかび出ていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青い二ツ折の編笠に日をけていた。八幡祭はちまんまつりの揃いらしい、白地に荒い蛸絞たこしぼりの浴衣に、赤い帯が嬉しかった。それに浅黄の手甲脚半てっこうきゃはん腰蓑こしみのを附けたのが滅法好い形。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
だが草々くさぐさの身仕度はこれでしまいなのではない。最後に珍らしい二つのものを身につける。一つはあの浦島太郎がつけているような総々ふさふさとした腰蓑こしみの(まえあて)である。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
乙姫おとひめは——彼はちょっと考えたのち、乙姫もやはり衣裳だけは一面に赤い色を塗ることにした。浦島太郎は考えずともい、漁夫の着物は濃い藍色あいいろ腰蓑こしみのは薄い黄色きいろである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
くろんぼのからだには、青い腰蓑こしみのがひとつ、つけられていた。油を塗りこくってあるらしく、すみずみまでつよく光っていた。おわりに、くろんぼはうたをひとくさり唄った。
逆行 (新字新仮名) / 太宰治(著)
佐渡さどじゃ蚯蚓みみずふんにひるという、近代の俗謡にもあるように、この東方の珊瑚礁さんごしょう間の島々では、腰蓑こしみの一つであるき廻ったほどの自然児が、ひまにまかせて朝夕にってはつな
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは腰蓑こしみので、笠をかぶった、草鞋穿わらじばきの大年増が、笊に上げたのを提げて、追縋おいすがった——実は、今しがた……そこに一群ひとむれうなぎなまずどじょう、穴子などの店のごちゃごちゃした中に
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、男は鮎小屋の内を覗き、破れ笠や、腰蓑こしみのなどを持ち出して来て。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)