脅威きょうい)” の例文
「毛利方であった備前の浮田直家も、ついにかんを織田家に通じ、ために毛利は境を脅威きょういされて、上方かみがたへ援軍に来るどころではない」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥さん! 青木君の弟を、あなたの脅威きょういから救うことに、僕は相当の力を尽すつもりです。それは死んだ青木君に対する僕の神聖な義務だと思うのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あるときは、あめがつづいて、出水しゅっすいのために、あるときは、すさまじいあらしのために、またしんおそろしいゆきのために、その脅威きょういは一つではなかったのです。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつも言うとおり、今は日本中が病気なんだから、友愛塾だけがその脅威きょういから安全でありうる道理がないんだ。病菌びょうきんはこれからいくらでもはいって来るだろう。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
日露戦争で日本が勝利を占め、却露は一応解決したが、東洋をおびやかす列国の脅威きょういは去ってない。そのとき清朝政府では問題にならんので、興漢運動に同調したのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
つまりこの一隊の異形いぎょうは、左膳の乾雲、栄三郎の坤竜にとって、ともに同じ脅威きょういであった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
馬鹿馬鹿しく高い塀のつめたい感じが、最初から反感をそそったのは事実だった。だから、その塀の崩壊したのを見た時は、大地震の脅威きょういの中でありながら、痛快に思ったくらいだ。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
認める傾向があったことは同業の師匠連の自尊心をきずつけ時には脅威きょういともなったであろう検校と云えば昔は京都より盲人の男子に下される一つの立派な「位」であって特別の衣服と乗物を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
終戦の年の冬は、この自然の猛威のほかに、今一つ食糧危機という恐ろしい脅威きょういが加わっていた。見渡す限りの土地は雪に埋れている。吹雪の日には、雪までも白くはなく、死んだような灰色である。
◯かくてエホバとサタンとの対話の結果、サタンは神の許可を得ていよいよヨブにわざわいを下すのである。その災は前後二回にわかたる。前の災は彼の所有物に関するもの後の災は彼の生命の脅威きょういである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
まだまだ冬の脅威きょういが残っていた。
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
辣腕らつわんのきこえある松平左京之介が、二条城へ入れ代ったのは、ひッ腰の弱い公卿くげたちにとって、おそろしい脅威きょういであろう。まだいけない、機はほんとうに熟してはこない。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供の感情を蹂躙じゅうりんし、脅威きょういし、ある時は殆んどその存在すらも無視して来たのであった。しかし、子供は、ついにそれに対して訴うる言葉を持たなかった。永久に、子供は持たないのである。
子供は虐待に黙従す (新字新仮名) / 小川未明(著)
然るにその二つが結ばれては、必然、大きな脅威きょういをうける朝倉や叡山などが、たえず両家の不和をはかっている。汝ら家臣のはいも、それに躍って、主家を滅亡へ導こうとするか
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先年までは、犬千代という強敵が居、消極的に、失恋を待っていたら、とても勝目はないので、あらゆる智慮と熱情をもってそれと闘ったが、もう自分の恋を脅威きょういする相手は
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それほど彼の存在は短くはあったが足利方には大きな脅威きょういであったのだろう。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勢濃二州がこぞって秀吉の背後を脅威きょういするに至る日をもって、即ちここの二万余勢の総兵力も、一挙、なだれ打って、西浅井、東浅井の諸砦しょさいを攻めつぶし、秀吉を長浜、佐和山の一隅へ追いつめ
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして柴田勝家は、さいごの十四日夜、越前への帰国を発表し、十五日朝、清洲を立ったが、木曾川を渡って、美濃みのに入るやいな、自己の予感と、途上の風説との一致に、愕然がくぜんたる脅威きょういにさらされた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは、旅川周馬にとって、まことに、由々ゆゆしい脅威きょういである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)