でき)” の例文
母に死別しにわかれて間のない、傷みやすい蕗子の心を波立たせたくない。できることなら何も知らせずに、このまま土地を離れてしまいたい。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
それにしても、文字もんじが彫ってあると云うのはすこぶる面白い問題で、文字もんじの解釈ができたら、𤢖の正体はいよいよ確実に判りましょう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
青年は車は何方どちらの方へ往くだろうと思って、見たかったがすっかり扉が締っているので見ることができなかった。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其後も矢張その会堂に起臥おきふしして、天理教の教理、祭式作法、伝道の心得などを学んだが、根が臆病者で、これといふ役にも立たない代り、悪い事はカラできないたちなのだから、家を潰させ、父を殺し
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お杉はあざけるように高く笑った。如何いかにもひとを馬鹿にした態度である。もううなっては我慢も堪忍もできぬ。市郎の疳癪かんしゃくは一時に爆発した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「家内もございません、貧乏でございますから、持つことができません」
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかも再び彼の声を聴くことはできなかった。隣の庭でも鳴かなかった。甥の作った水出しは物置の隅へ投げ込まれてしまった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「私でできることなら、往っても良いのですが」
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
云う人は極めて真面目であるが、云われる方は余り馬鹿馬鹿しくて御挨拶ができぬ。お葉はある岩角に腰をおろして、紅い木葉このはいじっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
男湯と女湯との間は硝子戸がらすど見透みすかすことができた。これを禁止されたのはやはり十八、九年の頃であろう。今も昔も変らないのは番台の拍子木の音。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甥がいくら苦心しても、人工の雨では遂に彼を呼ぶことができなくなった。甥は失望していた。私も何だか寂しく感じた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今度のこともよんどころなく頼まれたのであるとしきりに訴えたが、彼女かれの涙は名奉行の心を動かすことはできなかった。しかし名奉行にも涙が無いのではなかった。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし今度の罪人はこのお慈悲を受けることができなかった。享保十二年の冬は容赦なく暮れて云った。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その以来又四郎は余ほど警戒しているらしく見えるので、お常も迂闊に手を出すことができなくなった。忠七は自棄やけになって放蕩を始めた。お熊は嫉妬やら愚痴やらで毎日泣いた。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人は総て死を期している。随って混雑極まる乱軍のうちにも、一種冷静の気を見出すことができる。しかもここの町に奔走している人には、一定の規律がない、各個人の自由行動である。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それでも彼女はさいわいであった。彼女が奉公替をしたということを故郷へ知らせて遣った頃から、両親の心も和らいだ。子までしたものを今更どうすることもできまいという兄たちの仲裁説も出た。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)