胸中きょうちゅう)” の例文
その引っ繰り返るという時の人の胸中きょうちゅうに同情があって、その同情をき起すという事が出来なければ、あれは成功は出来ないのである。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
共に眺めんキトウスの月、翁は久しくキトウスの月を共に眺むる人を求めて居る。若い者さえ見ると、胸中きょうちゅうをほのめかす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかる処また/\別のかんがえいつともなく胸中きょうちゅうに浮び来り申候。それはの金子今も果して樹上の穴に有之候否や。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
胸中きょうちゅう深刻しんこくいたみをおぼえてから、気楽きらく悠長ゆうちょうな農民を相手あいてにして遊ぶにたえられなくなったのである。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そう考えてしのびこんだ胸中きょうちゅうだいねん、おのずからりんのごとく眼脈がんみゃくえあがっているので、暗々あんあんたる屋根やねうらのはりに、そのものすごい形相ぎょうそうをあおいだ蛾次郎がじろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思慮しりょのただ胸中きょうちゅうにあるのみにては、まだ男性の資格を充分に発揮はっきしたとは言いがたい。なんとなれば男性の特性は活動にある。働きかけすなわち能動は男性的にして、女子は受け身である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
伴い、汝は帰国するのだ。それから先のことは、汝の胸中きょうちゅうに自ら策がわいて来るであろう。とにかくわれは、汝ら三名の平安のために、今より呪文じゅもんを結ぶであろう。しばらく、それにひかえていよ
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あしたは祭礼さいれいの日というので朝から家じゅうそうがかりで内外のりかたづけやらふるまいの用意にたてきってるさいに、びとを受けたのである。お政はほとんど胸中きょうちゅう転倒てんとうしている。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
畜産界ちくさんかいのためということも考えて働いた。人民じんみんのためということも考えて働いた。けれどもただ自分のためということは、ほとんど胸中きょうちゅうになく働いておった。なんといううかつであったろう。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)