みど)” の例文
近江おうみの空を深く色どるこの森の、動かねば、そのかみの幹と、その上の枝が、幾重いくえ幾里につらなりて、むかしながらのみどりを年ごとに黒く畳むと見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山のみどりもよいし、渓流のせせらぎ、朝の青嵐もよいが、感覚的に愉しいのは、この鮎の匂ひを川から嗅ぐ時だ。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
橄欖かんらんみどりしたたるオリムピアがすでにむかしに過ぎ去ってしまった証拠しょうこには、みんなの面に、身体に、帰ってからの遊蕩ゆうとう、不節制のあとが歴々と刻まれ、くもり空、どんよりにごった隅田川すみだがわ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
海棠のうしろにはちょっとした茂みがあって、奥は大竹藪おおたけやぶが十丈のみどりを春の日にさらしている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岨道そばみちを登り切ると、山の出鼻でばなたいらな所へ出た。北側はみどりをたたむ春の峰で、今朝えんから仰いだあたりかも知れない。南側には焼野とも云うべき地勢が幅半丁ほど広がって、末はくずれたがけとなる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古い京をいやが上にびよと降る糠雨ぬかあめが、赤い腹を空に見せていと行く乙鳥つばくらこたえるほど繁くなったとき、下京しもきょう上京かみきょうもしめやかにれて、三十六峰さんじゅうろっぽうみどりの底に、音は友禅ゆうぜんべにを溶いて
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)