罪滅つみほろぼ)” の例文
高柳君はこんなところになるとすこぶる勇気にとぼしい。謝罪かたがた尋ねはしたが、いよいよと云う段になると少々怖こわくて罪滅つみほろぼしが出来かねる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あはれげな歌を歌ひ、鈴振鳴らし、長途の艱難を修行の生命いのちにして、日に焼けて罪滅つみほろぼし顔な巡礼の親子もあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この方面においては民間伝承の会はまだ無識むしきであり、かつ怠慢であったことが明らかになったから、罪滅つみほろぼしのためにその資料を整理して、同志諸君に報じ
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
前世の約束ごとゝ思いましたから、うちを仕舞っておいずるを掛け、罪滅つみほろぼしのために西国三十三番の札所を廻りましたのは、ひょッと面目ないと思って田舎にでもかくれてゝ
成し罪滅つみほろぼしと自分の身には榮耀ええうは止め人にほどこす事而已のみす故受取金も多けれども夫故こまる我が身上しんしやう現在げんざいおとゝが外成ぬ年貢の金に差支へ手風てかぜいとうてそだてし娘を苦界へ沈める急場の難儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
遂に夜な/\恐しき夢に襲はれ候やうに相なり候間、せめて罪滅つみほろぼしにと、慶蔵の墓のみならず、往年溜池ためいけにて絞殺しめころし候浄光寺の所化しょけ得念とくねんが墓をも、立派に建て、厚く供養くようは致し候へども
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
是には何か能々よく/\の訳があって殺したというかどで、お前さんにひどく難儀もかゝるまいと思う、うして出家をげ、息子さんの為に四国西国を遍歴して、其の罪滅つみほろぼしをせんければ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
世間と切り離された私が、始めて自分から手を出して、幾分でもい事をしたという自覚を得たのはこの時でした。私は罪滅つみほろぼしとでも名づけなければならない、一種の気分に支配されていたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
柳「だッてお前さん、現在我子と知れたのに打棄うっちゃって置くことは出来ませんから、名告らないまでも彼を棄てた罪滅つみほろぼしに、のくらいの事はしてやらなければ今日様こんにちさまへ済みません」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此の節は若い時分の罪滅つみほろぼしと思い、自分に余計な物でもあると困る人にやって仕舞うくらいだから、何も物は欲しくありません、村の衆が時々畠の物なぞを提げて来てくれるから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)