総髪そうがみ)” の例文
旧字:總髮
……男女の礼拝、稽首けいしゅするのを、運八美術閣翁は、白髪しらが総髪そうがみに、ひだなしのはかまをいつもして、日和とさえ言えば、もの見をした。
総髪そうがみに取上げた先を麻で結え、四五本のほつれ毛が額にこびりついていた。透き通るように蒼白い顔の皮膚をたるまして、枕の上にがっくりとなっていた。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
まげのあるもの、散髪のもの、彼のように総髪そうがみにしているもの、そこに集まる客の頭も思い思いだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白頭の総髪そうがみひげも白く、眼中するどくして、衣類は絹太織、浅黄小紋の単物ひとえもの縮緬ちりめんの羽織を着し、朱鞘しゅざやの大小を横たえきたり、「珍客の御入来ごじゅらいとて、招きに応じ参りたり」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
眉のやや濃い、生際はえぎわい、洗い髪を引詰ひッつめた総髪そうがみ銀杏返いちょうがえしに、すっきりと櫛の歯が通って、柳に雨のつやの涼しさ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その前の晩に、髪結いを呼ぶやら、髪を結わせるやら——大騒ぎ。これが髷のお別れだ、そんなことを言って、それから切りましたよ。そう言えば、半蔵さんはまだ総髪そうがみですかい。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四十余りの総髪そうがみで、筋骨たくましい一漢子いっかんし、——またカラカラと鳴った——鐸の柄を片手に持換えながら
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
直次のいてくれたのを総髪そうがみにゆわせ、好きな色のひもを後ろの方に結びさげていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
斜違はすッかいにこれをながめて、前歯の金をニヤニヤと笑ったのは、総髪そうがみの大きな頭に、黒の中山高ちゅうやまたかを堅くめた、色の赤い、額に畝々うねうねと筋のある、頬骨の高い、大顔の役人風。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半蔵ももはや以前のような総髪そうがみを捨てて髪も短かめに、さっぱりと刈っている人である。いつでも勝重が訪ねて来るたびに、同じ顔色と同じ表情とでいたためしのないのも半蔵である。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まちなし黒木綿の腰袴こしばかまで、かしこまった膝に、両のかいなの毛だらけなのを、ぬい、と突いた、いやしからざる先達が総髪そうがみの人品は、山一つあなたへ獅噛しかみを被って参りしには、ちと分別が見え過ぎる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大魔の形体ぎょうたい、片隅の暗がりへ吸込すいこまれたようにすッと退いた、がはるかに小さく、およそ蛍の火ばかりになって、しかもそのきぬの色も、はかまの色も、顔の色も、かしらの毛の総髪そうがみも、鮮麗あざやかになお目に映る。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)