経巡へめぐ)” の例文
「その密使として、これから高野をはじめ、諸山へ経巡へめぐる道すがらじゃ。太夫、まだ話したいことは、一夜に尽くせぬほど、山々あるぞ」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父は善根ぜんこんの深い人で、四国、西国の霊場を経巡へめぐ遍路へんろの人達のために構えの一棟を開放し善根の宿に当てていた。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
今尚諸国を経巡へめぐりて、斯道しどうの達人を求めおる次第、しかるに只今お聞きすれば、忍術の心得ござるおもむき、拙者にとっては何よりの幸い、なにとぞ拙者の懇望こんもうを入れられ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
経巡へめぐって来たことに於ては、あのマドロスさんなんぞより、遥かに世間が広いらしうございます
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
男 お前なんかには、それが、なんかのめぐり合せみたいに思へるんだらう。四半世紀、限られた土地の上を経巡へめぐつてみろ。到る処で、嘗て何かしら交渉のあつた人間にぶつかる。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
笈摺おいずるも古ぼけて、旅窶たびやつれのした風で、白の脚絆きゃはんほこりまぶれて狐色になっている。母の話で聞くと、順礼という者は行方知れずになった親兄弟や何かを尋ねて、国々を経巡へめぐって歩くものだと云う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
最初この町に来た時はそれほどに感じなかったのだが、その後一旦此処ここを去って、日本人が一人も住まない島々を経巡へめぐって来たあとで再び訪れた時に、この事が極めてハッキリと感じられたのである。
だが、やがて中堂の焼け跡、また大講堂や山王院や浄土院のあたりを経巡へめぐってみても、そこにはかつてのうずたかい焦土がそのままあるだけであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸国を経巡へめぐっておりましたところ、今度お館の大事と知り、夜を日に次いで立ち帰る途中、ここらあたりまで来ました時、野武士の群に取り巻かれ、女房の行方はいまだに知れず
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伊予の大洲おおすから九州の佐賀の関に上陸、豊後路ぶんごじを日向へ向い、そこの国分寺に伽藍がらんを建て、五智如来をきざんで勧請かんじょうし、それより大隅、薩摩、肥後、肥前と経巡へめぐってまたも日向の国分寺に戻り
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
狂を装って旅へ立去ったまま十一年間——三十一歳まで諸国を経巡へめぐって帰らなかったということである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほんとに私は三年の間世界の国々を経巡へめぐった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある剣法の懐疑の一点をおただし申さねばならぬので、かく諸国を経巡へめぐっているのだ——じゃによって、住地ところを定めて、新九郎殿の来るのを、待っている訳には参らぬ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元康は、甚七が多年、諸国を経巡へめぐって得た知識を、わずか一舟いっしゅうの席で半刻の間に得てしまった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葛城かつらぎへわけ登り、諸国の大山だいせん経巡へめぐって、えん優婆塞うばそくが流れを汲み、孜々ししとして、修行に身をゆだねてきたが、それでもまだ聖護院の役座にさえ登れず、旅山伏の弁海が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)