簇々むら/\)” の例文
あゝこの平和な村! あゝこの美しい自然! と思ふとすると、今言つた妻君の言葉がゆくりなく簇々むら/\と自分の胸に思ひ出された。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
西の簇々むら/\とした人家を崖の上に仰いで、船を着けた、満島からこゝまで九里の間を、三時間半。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
簇々むら/\とまろがりゆく霧のまよひに、対岸の断崖は墨のごとく際だち、その上に生ひ茂る木々の緑のうるほへる色は淀める水の面なづる朝風をこころゆくばかり染めなしたり
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
こゝろもとなげなくも簇々むら/\みなみからはしつて、そのたびごと驟雨しううをざあとなゝめそゝぐ。あめはたかわいたつちにまぶれて、やが飛沫しぶき作物さくもつ下葉したばつて、さら濁水だくすゐしろあわせつゝひくきをもとめてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と、思ふと、向ふの低い窪地くぼち簇々むら/\と十五六人ばかりの人数があらはれて、其処に辛うじて運んで来たらしいのは昼間見たその新調の喞筒である。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
と再び思つた自分の胸には、何故か形容せられぬ悲しい同情の涙がよろひに立つ矢の蝟毛ゐまうの如く簇々むら/\と烈しく強く集つて来た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
其眺矚そのてうしよくや甚だ廣濶くわうくわつなるにあらず、否、此處こゝよりはその半腹を登り行く白衣はくいの行者さへ見ゆと言ふなる御嶽の姿も、今日けふは麓の深谷より簇々むら/\と渦上する白雲の爲めに蔽はれて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)