立烏帽子たてえぼし)” の例文
この言葉に平大納言時忠は、緋色の緒のついた袴、葛糸織くずいとおりの直垂、立烏帽子たてえぼしという姿で惟村の前にあらわれると、きつい語調でいった。
脊丈のほどもおもわるる、あの百日紅さるすべりの樹の枝に、真黒まっくろ立烏帽子たてえぼし鈍色にぶいろに黄を交えた練衣ねりぎぬに、水色のさしぬきした神官の姿一体。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中には一夜いちやの中に二人まで、あの御屋形のなしの花の下で、月に笛を吹いている立烏帽子たてえぼしがあったと云う噂も、聞き及んだ事がございました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
萌黄緞子もえぎどんすの胴肩衣かたぎぬをつけ、金の星兜の上を立烏帽子たてえぼし白妙しろたえの練絹を以て行人包ぎょうにんづつみになし、二尺四寸五分順慶長光の太刀を抜き放ち、放生ほうしょう月毛と名づくる名馬に跨り
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いや、どこやらなまめかしい水干衣すいかん立烏帽子たてえぼしという粧い、あるいは、特に御贔屓ごひいきの白拍子かもしれませぬ」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世の常の立烏帽子たてえぼし大兜おおかぶとに、よろい、陣羽織、題目の旗をさして片鎌鎗という道具立てが無いだけに、故実が一層はっきりして、古色が由緒の正しいことを語り、人相に誇張のないところ
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「———『風袋かぜぶくろに、とりばち、銭叺ぜにがます、小判に、金箱かねばこ立烏帽子たてえぼし、………』」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
船頭たちがなぜ素袍すおうを着て、立烏帽子たてえぼしかぶっていないと思うような、尊い川もござりまする、女のきますくるまもござります、ちょうど明日は旧の元日。初日の出
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある花曇りの日の昼中ひるなかだったかと存じますが、何か用足しに出ました帰りに、神泉苑しんせんえんの外を通りかかりますと、あすこの築土ついじを前にして、揉烏帽子もみえぼしやら、立烏帽子たてえぼしやら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
天正九年十月、成願寺せいがんじの激戦に、立烏帽子たてえぼしの前立に、黒革くろかわのよろいを朱にさせ、苦戦の味方を
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花火の相図と共に、立烏帽子たてえぼしに緑色の直垂ひたたれを着て、太刀をいた二人の世話係が東から出て来ました。西の方からは紅の直垂を着て、同じく太刀を佩いた二人の世話係が出て来ました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
白拍子というのは、鳥羽天皇の時代に、男装の麗人が、水干すいかん立烏帽子たてえぼしで舞を舞ったのが始りとされているが、それがいつか、水干だけをつけて踊る舞姫たちを白拍子と呼ぶようになったのである。
芳紀とし正に二八にはちながら、男女おとこおんな雌雄めおの浪、権兵衛も七蔵も、頼朝も為朝も、立烏帽子たてえぼしというものも、そこらのいわおの名と覚えて、崖に生えぬきの色気なし、なりにもふりにも構わばこそ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
舞台の人形は、藍色の素袍すおうに、立烏帽子たてえぼしをかけた大名である。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)