しばたた)” の例文
正覚坊しょうかくぼうも、平助の言葉がわかったかのようにうなだれてしまいました。涙をこぼすまいとつとめているように眼をしばたたきました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
真箇ほんとに何時も/\先生に許り御迷惑をかけて。』と言つて、うるみをつた大きい眼を気毒相にしばたたく。左の手にはまだ封も切らぬ手紙を持つてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「まさか撮影用じゃあるまいが」と熊城は、不意の明るさに眼をしばたたきながら、「いや、死霊おばけは事実かもしれん。 ...
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
目はしばたたきもやんだように、ひたと両の瞳を据えたまま、炭火のだんだん灰になるのを見つめているうちに、顔は火鉢の活気にほてってか、ポッと赤味をして涙もかわく。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
立会った医師が二人まで、目をしばたたいて、学士に会釈しつつ、うなずいた。もはや臨終だそうである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「厭だって……」とと言いけて糸子は急に俯向うつむいた。しばらくは半襟はんえりの模様を見詰めているように見えた。やがてしばたたまつげからんで一雫ひとしずくの涙がぽたりとひざの上に落ちた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一度僕ハ、彼女ガイカナル反応ヲ示スカト思ッテアノ性慾点ヲ接吻シテヤッタガ、誤ッテ眼鏡ヲ彼女ノ腹ノ上ニ落シタ。彼女ハソノ時ハ明ラカニハットシテ眼ヲ覚マシタラシクしばたたイタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしは怒りに燃え、今度慣れ慣れしい素振りを見せて来たときに、上体を斜に後へ退き、上眼づかいに少年の顔をきっとにらめつけてやった。少年はうろたえた眼ざしを眩しそうにしばたたかせて
美少年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
右の眼をちょっとしばたたくようにしながら読みにかかった。
その細い眼をしばたたきながら
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うね。』と云つて、智恵子は睫毛の長い眼をしばたたいてゐたが、『かたじけないわ、私なんかに御相談して下すつて。 ...
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「いや、元来わしは、そういう哲学問答が不得意でしてな」と警戒気味に、博士は眼をしばたたいて法水を見た。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
田舎者らしい老人は眼をしばたたきながら地面に屈んで、懐から穢い手拭を出して傷所を結えた。
群集 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と山伏も目をしばたたいた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『然うで御座いますねえ。』とお利代は大きい眼をしばたたき乍ら、未だ明瞭はつきりと自分の心を言出しかねる様で
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
折竹は、ただただ呆れたようにしばたたくだけ。ギャングども、大変なことを言ってきやがった。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)