白絽しろろ)” の例文
髪をさげ下地にして、細模様の縫入墨絵ぬいいれすみえ河原撫子かわらなでしこを描いた白絽しろろ単衣ひとえに綿の帯を胸高むなだかに締め、腕のあたりでひきあわせた両袖は、霞かとも雲かとも。
そのいちばん奥にだけ仄青ほのあおい燭の光が洩れている。光秀はそこにいた。近習きんじゅも小姓も見えない。ただ独り白絽しろろの小袖を着、太刀、脇息きょうそくを寄せて坐っていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
織屋おりや仕舞しまひ撚糸よりいとつむぎと、白絽しろろを一ぴき細君さいくんけた。宗助そうすけこのつまつたくれに、なつひと餘裕よゆうのあるものはまた格別かくべつだとかんじた。すると、主人しゆじん宗助そうすけむかつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ、はらはらとかかる白絽しろろたもとに、魂を結びつけられたか、と思うと、筋骨すじぼねのこんがらかって、さばきのつかないほど、み立てられた身体からだが、自然に歩行あるく。……足はどこを踏んだか覚えなし。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
織屋はしまいに撚糸よりいとつむぎと、白絽しろろ一匹いっぴき細君に売りつけた。宗助はこの押しつまった暮に、夏の絽を買う人を見て余裕よゆうのあるものはまた格別だと感じた。すると、主人が宗助に向って
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)