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發狂
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はつきやう
成程外には俺を張出さうとする力もあるのよ。だが
裡から押出さうとする力も強い、これじや耐らん、
惱亂する。無理に耐へたら遂に
悶死だ!………でなけア
發狂だ。
『
院長殿、とう/\
發狂と
御坐つたわい。』と、ハヾトフは
別室を
出ながらの
話。
拳で
胸を
打つて
祈るかと
思へば、
直に
指で
戸の
穴を
穿つたりしてゐる。
是は
猶太人のモイセイカと
云ふ
者で、二十
年計り
前、
自分が
所有の
帽子製造場が
燒けた
時に、
發狂したのであつた。
戸口から
第一の
者は、
瘠せて
脊の
高い、
栗色に
光る
鬚の、
眼を
始終泣腫らしてゐる
發狂の
中風患者、
頭を
支へて
凝と
坐つて、一つ
所を
瞶めながら、
晝夜も
別かず
泣き
悲んで、
頭を
振り
太息を
洩し