瓦葺かわらぶ)” の例文
母子おやこ二人の生活を支えるに十分でありましたから、瓦葺かわらぶきのこじんまりした家に、二人は比較的平和な日を送っていたのでありました。
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
昔風の瓦葺かわらぶきの屋根、びた白壁などが並んだ落ち付いた町並みと、柳原あたりの(この辺は昔もあまり立派な町並みではなかったが)
通りすがりにあお瓦葺かわらぶきの文化住宅の貸家があったので這入ってみる。庭が広くて、ガラス窓が十二月の風に磨いたように冷たく光っていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
地方によっては普通の農民に、瓦葺かわらぶきや破風はふ作り等の家を許さず、たまたま領主に対して功労のあったものにのみ、特典としてこれを認めた。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
瓦葺かわらぶきの、三十坪ちかくありそうな平屋の建物で、屋根を掛けた井戸が脇にあり、四五人の女たちが菜を洗っていた。
家屋の構造に、それまで制約されていた条件(たとえば、大名武家以外は、瓦葺かわらぶきの屋根はできなかったなどの——)
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くわたけ高く伸びているので、遠くから望むと、旧家らしい茅葺かやぶきの台棟だいむね瓦葺かわらぶきのひさしだけが、桑の葉の上に、海中の島のごとくいて見えるのがいかにもゆかしい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私が修道院の所在をたづねると、すぐ隣にそびえる二階建の宏壮な日本家屋を指さして見せた。瓦葺かわらぶきの大きな門はしまつてゐたが、丁度ちょうどその時くぐりがカタリとあいて、一人の老神父が出て来た。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
朝夕のたつきも知らざりし山中やまなかも、年々の避暑の客に思わぬけぶりを増して、瓦葺かわらぶきのも木の葉越しにところどころ見ゆ。尾上おのえに雲あり、ひときわ高き松が根に起りて、いわおにからむつたの上にたなびけり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
寺を瓦葺かわらぶきといった言葉が伊勢神宮いせじんぐうにもあって、宮殿きゅうでんや神のおやしろでさえも、さいしょは瓦をつかってはいなかった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
江戸は年々歳々ねんねんさいさい御触出おふれだしあるがゆえに、通りすじ間筋あいすじ大方おおかた瓦葺かわらぶきとなったが、はしばしにはたたき屋根が多い。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そういう中でも、土蔵造どぞうづくりという瓦葺かわらぶきなどは新らしいもので、大きな商人の多量の財貨をかかえた者でないと、必要もなく、また持ちこたえることができない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
瓦葺かわらぶきが普及すれば瓦の間に、萱葺かやぶきが厚くなればこれに穴をあけて住み、人がいなかった昔はどうしていたろうかを、もう考えて見ることも出来ぬようになっている。