物堅ものがた)” の例文
片親の父に相談してみても物堅ものがたい老舗の老主人は、そんな赤の他人の白痴などにまっても仕方がないと言ってあきらめさせられるだけだった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「それじゃ今世紀のウェルテルさ。——なに石を上げて勘定をしろ? やに物堅ものがた性質たちだね。勘定しなくっても僕は負けてるからたしかだ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やはりその一瞬間、能面のうめんに近い女の顔に争われぬ母を見たからである。もう前に立っているのは物堅ものがたい武家の女房ではない。いや日本人の女でもない。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
物堅ものがたい和上もわかいので法力はふりきうすかつたせゐか、入寺にふじの時の覚悟を忘れて其の娘をもらふ事にめた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
立るとは云ものゝ餘り物堅ものがたき人かなと文右衞門がうはさをなし夫に付ても娘お幸はさぞかしつらつとめならんなどと密々ひそ/\はなしの折から親分の武藏屋長兵衞は長八殿どのうちにかと聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
温健の好人物と云ふ事で、其方そのほうはすぐ方付かたづいて仕舞つた。不幸にしてだれも令嬢の父母を知らなかつた。けれども、物堅ものがたい地味なひとだと云ふ丈は、ちゝ三人さんにんの前で保証した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
遣はるゝに相違なしすれば某しが志操こゝろざしとゞむすめ無陀奉公むだぼうこうにならぬと云ふ者なりはなしければ女房お梅も打喜び夫はよくこそ取計とりはからはれたりすれば如何に物堅ものがたき人にても手元にあるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
文右衞門のたく持參ぢさんなしむかしの恩報おんはうじなりと差出さしいだせしところ物堅ものがたき文右衞門なれば何と云ても請取うけとられず私しも仕方なき故かんがへ居たる中文右衞門は留守るすになりたるをさいはひ何も云ずに右廿五兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)