片鬢かたびん)” の例文
片鬢かたびんの禿げた乞食のおやじが、中気で身動きも出来なくなったのを、綺麗な若い女が来て、知辺しるべの者だからと引取って行ったそうですよ。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「宵子さんかんかんって上げましょう」と云って、千代子は鄭寧ていねいにその縮れ毛にくしを入れた。それから乏しい片鬢かたびんを一束いて、その根元に赤いリボンをくくりつけた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新吉はうちへ帰ると女房が、火傷のあと片鬢かたびんはげちょろになって居り、真黒なあざの中からピカリと眼が光るおばけの様な顔に、赤ん坊は獄門の首に似て居るから、新吉は家へ帰りい事はない。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旅商人たびあきゅうどに身をやつしていたが、その容貌までを変えるため、母里太兵衛は、片鬢かたびんの毛を、焼ごてで焼いて、わざと大きな禿はげをつくっていたし、栗山善助は前歯を数本欠き、井上九郎は、元々
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片鬢かたびん禿げた乞食の爺いが、中氣で身動きも出來なくなつたのを、綺麗な若い女が來て、知邊しるべの者だからと引取つて行つたさうですよ。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
姿勢だけはくずさない。女ははっと躊躇ためらう。やがて頬に差すくれないを一度にかくして、乱るる笑顔を肩共に落す。油をさぬ黒髪に、さざなみ琥珀こはくに寄る幅広の絹の色があざやかな翼を片鬢かたびんに張る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鍛冶屋かじや出なので、子供の頃、ふいごの火土ほどに転んで、片鬢かたびんそッくり焼けただらしてしまったとかいう顔を、肥満した体躯にッけて、よくガミガミ下職をどなっている五十ぢかい男なのだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と恥かしそうに行燈あんどうの処へ顔を出すのを、新吉が熟々つく/″\見ると、此の間法蔵寺で見たとは大違い、半面火傷の傷、ひたえから頬へ片鬢かたびん抜上ぬけあがりまして相が変ったのだから、あっと新吉は身の毛立ちました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
片鬢かたびん火傷やけどか何んかで大禿はげになつた上、惡い病ひで鼻も頬も潰れたらしく、見る眼も氣の毒なほど痛々しい姿ですが、それでも生活力は旺盛わうせいらしく、馬の草鞋わらぢを履いた足と手で
二十一二になる色盛いろざかりの娘、顔にポツリと腫物できものが出来ましても、何うしたらかろうなどと大騒ぎを致すものでございますのに、お累は半面紫色に黒み掛りました上、片鬢かたびんはげるようになりましたから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)