燦々きらきら)” の例文
羅紗らしゃズボンだの、陣羽織だの、足軽笠あしがるがさだの、そして、荷駄にだや馬の首の流れて行く行列の上に、銃と槍と、旗差物はたさしものが、燦々きらきらしていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところで、極彩色の孔雀が燦々きらきらと尾羽を円くひろげた夏の暑熱と光線とは、この旅にある父と子とを少からず喜ばせた。
白帝城 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
燦々きらきらまぶしく輝くのみである、此の正体は問う迄もなく夜光珠だいやもんどで、中には十二乗を照すとも評す可きでかいのもある。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
六時の鳴るのをも耳にした。七時の打つのも聞いた。八時の鳴るのも数えていた。駘蕩たいとうたる春の夕もようやくに暮れ、窓から見上げる真っ暗な大空には無数の星が燦々きらきらと輝いていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
陣幕とばりの外の士卒に、駒をあずけて、相木熊楠はずかずかと入って来た。鎧の鍛具うちものや太刀の柄に、雨のしずくが燦々きらきらと溜っている。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白ペンキ塗の厚縁あつぶち燦々きらきらで、脾弱ひよわい、すぐにもしわってはずれそうな障子やからかみしきりの、そこらの間毎まごとには膏薬のいきれがしたり、汗っぽい淫らな声がえかけたりしている。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
追いかけ、先立つ武者たちの物の具が、秋の陽に燦々きらきらする。城門のほとりや郭内の侍邸さむらいやしきの並んでいる辻々には、たくさんの見送り人がたたずんでいた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日ざかりは短艇ボート動かず水ゆかずかたはつぶつぶ空は燦々きらきら
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
峠のかげにもう陽は沈み、多宝塔の屋根の水煙すいえんだけが、七宝の珠でちりばめたように、燦々きらきらと夕陽の端をうけている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世に愛し雌にし矜ると張る尾羽の七面鳥は燦々きらきらしかも
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
小笠原の家臣は、華麗かれい鋲乗物びょうのりものを支度して、月下を燦々きらきらと、龍山公のお孫を迎えるべく蔵前片町へ出向いて行った。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蚊㡡かや越しではあるが、九尺の大床のわきには、武者隠しの小襖こぶすまがある。その金砂子きんすなごは、内にかくしてある刺客せっかくの呼吸と殺気とに気味悪く燦々きらきらしているではないか。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姫は、涙でいっぱいになったひとみで、かしらを下げた。その黒髪の銀釵ぎんさはもう揺れだしたわだち燦々きらきらとうごいていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海と空が、一瞬ごとに、白々と二つのものにわかれて来て、やがて、真っ赤な太陽の放射が、海を走り、石垣を染め、樹々にかがやき、城の屋根の角々かどかど燦々きらきら光った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一剣、燦々きらきらと、針のように小さく、じっと青眼にすえたまま、武蔵は遠く立って待っていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒檀こくたん木地きじに青貝の象嵌ぞうがんがしてあるだけで、大して高価な印籠とも見えないが、夜の道に捨てられてあると、その青貝模様の光が、ほたるのかたまりが落ちているように、ひどく妖美ようび燦々きらきらと見える。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)