烏天狗からすてんぐ)” の例文
と、おくへいって持ってきたのは、ふるい二つの仮面めんである。あおい烏天狗からすてんぐ仮面めん蛾次郎がじろうにわたし、白いみこと仮面めんを竹童にわたした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金翅鳥は竜を常食とする大鳥で、これまた卵胎湿化の四生あり、迦楼羅かるら鳥王とて、観音の伴衆つれしゅ中に、烏天狗からすてんぐ様に画かれた者だ。
囃子は笛二人、太鼓二人、踊る者は四人で、いずれも鍾馗しょうきのような、烏天狗からすてんぐのような、一種不可思議のおもてを着けていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(梢より先ず呼びて、忽ち枝より飛びくだる。形は山賤やまがつ木樵きこりにして、つばさあり、おもて烏天狗からすてんぐなり。腰に一挺いっちょうおのを帯ぶ)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとへば、印度いんどの三明王めうわうへんじて通俗つうぞくの三入道にふだうとなり、鳥嘴てうし迦樓羅王かろらわうへんじてお伽噺とぎばなし烏天狗からすてんぐとなつた。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ちょっと恵比寿えびすに似たようなところもあるが、鼻が烏天狗からすてんぐくちばしのようにとがって突出している。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と答えたものの、高谷君は左の方が血目ちめになって、まわりに黒ずみがよっていた。痛いに相違ない。正三君は口ばたがはれあがって、烏天狗からすてんぐそのままの顔だった。つばばかりいている。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
えらから荒縄をとおされ烏天狗からすてんぐみたいな口をくわっとあけて鉤なりの歯を見せている。頭は焼物のように黒くてらつき、体は赤黒く光沢をおびて、美しいというよりは野趣のある魚である。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
世人はようやくこの奇賊を烏天狗からすてんぐとは呼び始めた。
ところが、それは高時の酒狂上の発作を、つい真物ほんものの発狂沙汰にさせてしまった。——なぜなれば、むらがり立ッたものは、人間でなく、ことごとく烏天狗からすてんぐであったからだ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「八戒よりも烏天狗からすてんぐです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、細目ほそめにすかして、烏天狗からすてんぐ仮面めんをつけたまま息を殺してさしのぞいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよ、その若夫婦を、祝うてくりょうと、華雲殿げうんでんに招いてやったこともある。……ところが這奴しゃつめ、大酒に食べ酔うて、田楽でんがくどもの烏天狗からすてんぐの姿を借り、この高時をしたたかな目にあわせおった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)