浸染にじ)” の例文
どうもあぶないので、おもふやうにうごかせませなんだが、それでもだいぶきずきましたやうで、かゞみませんが、浸染にじんでりますか。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そして何といふことなし、瞼の裏に涙の浸染にじんで來るのを覺えて、ちよつとの間ながら病苦の薄らいで行くやうなうと/\した氣持になりかけた。
奇病患者 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
入道にふだうの、のそ/\と身動みうごきするのが、暗夜やみなかに、くもすそひく舞下まひさがつて、みづにびつしより浸染にじんだやうに、ぼうと水気すゐきつので、朦朧もうろうとしてえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寝台ねだいの上に横たわっている婦人は曾根だ。曾根は三吉にあおざめた手を出して見せて、自分の病気はここにると言う。人差指には小さい穴が二つ開いている。痛そうに血が浸染にじんでいる。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はテレピンいたあとのグリインの浸染にじんだてのひらを開いて良人をつとに見せました
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
天幕テントの屋根の筋目から仰ぐと、暗灰色の虚空そらが壁のように狭くなって、鼻の先に突っ立っている、雨と知りながらも、手を天幕の外へ出すと、壁から浸染にじみ出る小雨に、五本の指が冷やりとする
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そして油汗の浸染にじんだ、土色を帶びた青い顏は、苦悶と、すつかり頼り無げの表情から、酷く引歪められてゐた。
奇病患者 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)