気兼きが)” の例文
旧字:氣兼
「わたしは、おまえさんから、そのおどりをならいたいのですから、そんな、気兼きがねはすこしもいりません。」と、おさまさまはこたえられました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小説の材料に使えるなどとは無論思わなかったが、ただこの気兼きがねな訪問者から、少しでも早くのがれたかったからである。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これに反して停車場内の待合所は、最も自由で最も居心地よく、いささかの気兼きがねもいらない無類上等の Caféカフェエ である。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
旦那さんが女中に気兼きがねするなんて……。そういいなさればいいのに……。コップを代えるぐらいなんでもありゃしない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
背丈は尋常だが肩幅の狭い、骨細な体に何所か締りのぬけた着物の着かたをして、椅子にもかけかねる程気兼きがねをしながら、おんつぁんからの用事をいひ終ると
(新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「紀州連れてこのたびの芝居見る心はなきか」かくいいし若者は源叔父あざけらんとにはあらで、島の娘の笑い顔見たきなり。姉妹はらからは源叔父に気兼きがねして微笑ほほえみしのみ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すると父は手紙を読んでしまってあとはなぜか大へんあたりに気兼きがねしたようすで僕が半分しか云わないうちに止めてしまった。そしてよく相談そうだんするからと云った。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あの悪戯いたずらつ子がお茶汲んで出す恰好かっこう早熟ませてゝ面白いんで、お茶出せ、出せと、いつも私は言ふんで御座ございますがね、今日のやうに伯母おば夫婦に気兼きがねするんぢや、まつたく、あれぢや
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
おふみ (おはまに気兼きがねして)ええ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
開園当時の、招待客雑沓ざっとう時代が過ぎて、ジロ楽園は、本当の仲間内けの、気兼きがねのない遊楽地となっていた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしていっぱいに気兼きがねやはじ緊張きんちょうした老人ろうじんかなしくこくりといきむ音がまたした。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これに反して、誰に気兼きがねもいらない兄貴のフェリックスと姉のエルネスチイヌは、お代りがしければ、ルピック氏のやり方にならって、自分の皿を大皿のほうへ押しやるのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
段々よいが廻って、ドラ声をはり上げて歌うもの、洋服姿で変な踊りを始めるもの、場所は海岸離れた船の中、どんなに騒ごうがあばれようが、何の気兼きがねもないのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母さまは、須利耶すりやさまのほうに気兼きがねしながらもうされました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)