死屍しかばね)” の例文
ダーキーニなら、これは御馳走と死屍しかばねを食べも仕ようが、ダーキーニでは無かった定基は人間だったから後へ退って了ったのであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
われわれはわれわれを嫌悪させ落胆させる死屍しかばねをハゲタカがついばんで、この食事から健康と力とを引き出すのを見て元気づけられる。
いかなる浮浪の徒も、モンパルナスくらいに人に恐れられていた者はあまりない。十八歳にして彼は既に後に数多の死屍しかばねを残していた。
夜は既に明け放れて山霧全くれ、雨足も亦まばらになった。官軍は死屍しかばねを踏んで田原坂に進み、更に一隊は、敵塁の背後に出でようとした。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして、近所へ触れて歩いたので、村の者らも早速に駈け着けると、竜濤寺の古井戸から人間の死屍しかばねが続々と発見された。
ここの陣地も、はや前方の柵は突破され、敵とも味方ともわかぬ死屍しかばねは算を乱し、槍の折れ、踏みしだかれた旗さし物など、凄愴のはみちている。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生前同町の郵便局に勤めていた二十二歳の Sandrra G. Baxter という美しい女の二日前に埋めた許りの死屍しかばねが掘り返され、死×の上
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「きみの口の周りは、まるで死屍しかばねでも食ったように、泥だらけだよ。洗ったらいいだろう。どうしたんだね」
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
劣敗者の死屍しかばねは土足にかけられ、つばきせられても致方いたしかたがないように考えられているようであるが、しかし斯様かような人情の反覆の流行している現代は恥ずべき現代ではあるまいか。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うづた死屍しかばねうへを×(14)つかれてすゝんだ
血みどろになった二つの死屍しかばねは折り柄ふりしきる春雨に洗われながら、野良犬の亡骸なきがらのように川原に投げ捨てられた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この老人は祖国の前においては偉大なるものである。彼は長き生と赫々かっかくたる死とを得たのである。今やわれわれはその死屍しかばねを保護しようではないか。
それだけでも、あっぱれ天下の見世物なるに、この野に死屍しかばねをさらし、なんの面目あって、黄泉のもと、漢皇二十四帝にまみえるつもりであるか。退すされっ、老賊
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは死屍しかばねを食う鬼と白痴とを、気の狂ったわめきを思わせる。
彼は際限なき暗黒のうちにおける死屍しかばねめしいたる冒険を考える。底なき寒さは彼を麻痺まひする。彼の両手は痙攣けいれんし、握りしめられ、そして虚無をつかむ。
森蘭丸の父森三左衛門が悲壮な討死をとげた宇佐山の城址しろあともこの近くであったし、浅井朝倉などの大軍と織田勢が取り合って死屍しかばねを積んだ比叡の辻の戦場も遠くない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石は殺生石せっしょうせきと恐れられて、誰も近寄ろうとはせぬほどに、そのあたりには人の死屍しかばねや、けものの骨や鳥のつばさや、それがうず高く積み重なって、まるで怖ろしい墓場の有様じゃという。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ヴァン・クルーツェ旅団の勇敢なベルギー兵は、ニヴェルの道に沿った麦畑のうちに莫大ばくだい死屍しかばねを横たえていた。
雨は明くる朝まで降りやまないで、西横堀の川端に死屍しかばねをさらした男と女とのなまなましい血を洗い流した。男はのみ咽喉のどを突き破っていた。女は剃刀かみそりで同じく咽喉を掻き切っていた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、気負って進む者から、次々に、醜い死屍しかばねを、さらして行った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の魂は、この深淵のうちに流れ込むとき死屍しかばねとなる。だれかそれをよみがえらするであろうか。
二丈の高さにして皆で死守しよう。諸君、死屍しかばねとなっても抵抗しようではないか。人民は共和党を見捨てるとしても、共和党は人民を見捨てないことを、示してやろうではないか。
死屍しかばねの抵抗」を宣言した無名の男が、共通の魂の言葉を発した後、一同の口から何とも言えぬ満足した恐るべき叫びが出てきた。その意味は沈痛であったが調子は勇壮であった。
殺戮さつりく、惨殺、英独仏の兵士らの血は猛烈な混戦のうちに川となって流れ、井戸は死屍しかばねをもって満たされ、ナッソーの連隊およびブルンスウィックの連隊は全滅し、デュプラーは戦死し
その白兵戦のうちに各人が掉尾とうびの勇を振った。街路には死屍しかばねが累々と横たわった。