梃子てこ)” の例文
ナイチンゲールにとってクリミヤでの成果は彼女の経歴の有益な踏み石に過ぎず、それは世界を働かせる為の梃子てこ台であった。
見事な廊下で、男の手だけで煮炊にたきをするやら、洗濯をして松の木にほすやら……当家の主人は、こっち側とばかり、梃子てこでも動かぬ気組み。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
丁度老衰現象が始まろうとする時期から、これで梃子てこ入れをすると、八十歳になってもヒマラヤに登れるというのである。
梃子てこでも動くものかとはらをきめたが、若い者二人は静かに左右へ寄って来、温和おとなしくしろよと云いながら、栄二の腕を二人でつかんで引っ立てた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、名人がいったんこうしてごろりと横になりながら、ひとたびその手があごのあたりを散歩しはじめたとなったら、もう梃子てこでも動くものではない。
梃子てことしてKの定規じょうぎを取り、手すりを持ち上げようとしたが、おそらくはそうすればもっと容易にそれだけ深く手すりを押しこめることができるからだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
現住者がしたたかなひとで、梃子てこでも動かない、なんてのもあることですから、こちらから出かけて行って、寝た子を起こすような真似をすることはないでしょう。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そしてそのくちばしきょの中へ突き込むと、そのきょの中に二つの梃子てこのようなものが出ていてそれにれる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
よく考えるとそれは、梃子てこでも動かぬ理づめになっていた。しかし彼が云うと何か重苦しく暗いのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
糸の先に梃子てこをつけ、腸の運動を梃子に伝わらしめて、之を曲線に書かしめるのですが、私の方法はそれとちがって、大きい方のガラス器に直接タイロード氏液を入れ
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
実際、僕がステッキでしたように梃子てこでも使わなければ、誰でも窓の戸をあけることは出来ないのであった。僕は寝台の中がよく見えるように上のカーテンを絞っておいた。
孔につめる古綿。トンビに隠れる紙ブスマ。猫に見つからぬお守り。イタチの道切りに用いる尖り杭。火消しの板ぎれ。鰹節ひくときの梃子てこの類いなぞと数々の世帯道具をな。
……わたしは三遍さんべんそこをのぞきに行ったが、油じみたうわりを着て、ほおのこけた顔をした、もじゃもじゃがみせた男の子が十人ほど、四角な印刷台木いんさつだいぎめつける木の梃子てこ
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
妻を捨て、子も捨てて好きな女と一緒に暮している身に勝目はないが、廃嫡は廃嫡でももらうだけのものは貰わぬと、後へは行けぬおも梃子てこでも動かへんなんだが、親父おやじの言分はどうや。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それで、栓がだんだんに持ち上がっていって、尾錠の梃子てこを下から押し上げる。扉は明く、そうして、エーテルの噴気で半魔睡に陥ったやつを、君はらくらくと料理してしまったのだ。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
流行易者はやりえきしやほど相談事が殺到するのを、お上の御用以外は、梃子てこでも動くまいとする平次は、その大部分は追つ拂ひましたが、中にはそれを心得て、女房のお靜や子分の八五郎の手を經て
「出すさ」とその男は答えて、斧を梃子てこがわりに箱の中へつつこんだ。
それは SEVER(切り放す)か、LEVER(梃子てこ)か、NEVER(けっして、—打ち消しの)などとなる。哀願に対する返事としては、この最後のものはもう異論なく、最も適当である。
彼女は、薬缶の口から、ポンプの活栓かっせんのところへ熱湯を注ぎこんで、ポンプの梃子てこを押しはじめた。この数日来そうしないと、活栓がすっかり円筒の中で氷りついていて、びくとも動かぬのだった。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「気をつけてください」と与平が泣き声で叫んだ、「むやみにどけると却って石が崩れちまう、梃子てこを入れましょう」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いまも現に、蔵前中の札差し泣かせ、本所法恩寺の鈴川源十郎が、自分で乗りこんで来て、三十両の前借をねだって、こうして梃子てこでも動かずにいる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
六百何十戸を数える大部分の家臣と、その家族の千何百人かは、梃子てこでも動かなかったのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
梃子てこを用いてやっと引き抜いた鉄棒の孔に、ピアノ線を差し込むのはよいが、二十分間位放置して測定を終り、さてそれを抜こうとすると、どうしてもとれなくなってしまう。
永久凍土地帯 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
流行易者はやりえきしゃほど相談事が殺到するのを、お上の御用以外は、梃子てこでも動くまいとする平次は、その大部分は追っ払いましたが、中にはそれを心得て、女房のお静や子分の八五郎の手を経て
この梃子てこようのものは、五雄蕊ゆうずい中の下の二雄蕊ゆうずいから突き出たもので、昆虫のくちばしがこれにれてそれを動かすために、雄蕊ゆうずいやくが動き、そのやくからさらさらとした油気あぶらけのない花粉が落ちて来て
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
万吉が丸太を持って来て、こいつを梃子てこにしようと云った。丸太の下へかう物がみ当らないので、万吉はその一端を角柱の下へ突込み、一端へ自分の肩を入れてりきんだ。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「係りが島田越後だったのは幸いだ」と去定は口の中で独り言を云った、「これがもし津々井だったら、——あの石頭は梃子てこでも動くまいからな、島田なら、……なにか云ったか」