やけ)” の例文
商人あきんどやけになつて強くマツチを振つた。火はどうしても消えなかつた。すると、支那人のなかからかねて顔馴染の男がづかづか近寄つて来た。
しかし熟々つらつら見てとく点撿てんけんすると、これにも種々さまざま種類のあるもので、まずひげから書立てれば、口髭、頬髯ほおひげあごひげやけ興起おやした拿破崙髭ナポレオンひげに、チンの口めいた比斯馬克髭ビスマルクひげ、そのほか矮鶏髭ちゃぼひげ貉髭むじなひげ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
博士は胸算用むなさんようをしながら、やけ洋杖ステツキりまはした。洋杖ステツキが何かに当つたやうに思つてよく見ると、それは電信柱であつた。
そして楽器を手に取り直したと思ふと、やけに椅子の背に叩きつけた。楽器は女にだまされた男の心の臓のやうにこなこなになつて砕けてしまつた。
聴衆ききて越瓜しろうりのやうに真つ青になつてふるへた。やけな音楽家もあつたものだと我鳴りちらしてゐる男もあつた。
と言ひ/\、片手を髪の毛のなかに突つ込んで、なかから兎でも追ひ出すやうに、やけきまはす。
そして禿げかゝつた額際をやけに掻きながら「その二見が浦の真中から、海老が頭を出して、日の出を拝んでるところをいて戴きたいんですがね、如何いかゞでせう、御都合は。」
「見窄らしいよ、何と言つたつて見窄らしいよ。」と友達はやけになつてわめいた。「第一君の阿父おやぢの事を考へて見給へ、阿父おやぢさんは何処へ出るにもちやんとした身装みなりをしてゐたよ。」
箏曲家の鈴木鼓村氏は巨大胃メガロガストリイつた男として聞えてゐる人だが、氏は風邪にかゝると、五合めしと味噌汁をバケツに一杯食べて、それから平素ふだん余り好かない煙草をやけに吸ふのださうな。
かうして高浜氏はつゞざまに五六枚ばかしやけに引裂いた。
若い法学士は侮辱されたやうに、やけにいきり立つて
(新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
若い法学士は侮辱されたやうに、やけにいきり立つて