明箱あきばこ)” の例文
手紙の反古を少し掻き退けて見ると、一方の隅には綺麗な漆塗うるしぬりの小箱がいくつもある。開けて見れば、中は皆からである。これは勲章の明箱あきばこであつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
懐中ふところを探ると、燐寸まっちの箱は空虚からであった。彼は舌打したうちして明箱あきばこほうり出した。此上このうえは何とかして燐寸を求め得ねばならぬ。重太郎は思案して町のかたへ歩み去った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
狭い室内だから塵はたちまち室内に飛び廻って久しく下へ落付きません。ボーイは大きな紙屑かみくず土瓶どびんこわれや弁当とすし明箱あきばこなんぞを室外へ掃き出しますが塵と細菌はそのまま置土産おきみやげにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それとも物質ぶっしつ変換へんかん……物質ぶっしつ変換へんかんみとめて、すぐ人間にんげん不死ふしすとうのは、あだか高価こうかなヴァイオリンがこわれたあとで、その明箱あきばこかわって立派りっぱものとなるとおなじように、まことわけわからぬことである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
木村は跡へ引き返して四阿あずまやの中に這入つた。木の卓と腰掛とがある。竹の皮やマツチの明箱あきばこが散らばつてゐる。卓の上にノオトと参考書とを開いて、熱心に読んでゐる書生がゐる。
田楽豆腐 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)