おい)” の例文
千代子がかゆ一匙ひとさじずつすくって口へ入れてやるたびに、宵子はおいしい旨しいだの、ちょうだいちょうだいだのいろいろな芸をいられた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「えゝ/\、夫れは本当においしいのよ。これから谷川へ行つて、うんと捕つて来てあげるから、此所ここ温順おとなしく待つておいで。」
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
わたくしに何も教えて呉れませんで仕損しくじるようにばかり致し、お茶がはいっておいしい物を戴いても、源助が一人で食べて仕舞って私にはくれません、本当に意地の悪い男だというものだから
年寄はあやぶんで、背後うしろから昆布のような蒲団ふとんせようとすると、これじゃあきたならしくッて折角の馳走ちそうおいしゅうないと、取って撥退はねのけたので、蝶吉が心得て、被ていた羽織を脱いで着せた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「食べたり食べなかったりよ。わざわざ買うのは億劫おっくうだし、そうかってうちに何かあっても、むかしのようにおいしくないのね、もう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「嫌だ/\、そんなものみんな嫌だ、もつともつと甘くつておいしいものが欲しい……」と、黒ちやんはいひました。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
ああこの写真から下げて来ちゃおいしいものを食べたっけと、たまらなくなって、此方こなたを向くと、背中でとんとしまッた途端に、魂を抜去られたか、我にもあらず、両手で顔を隠して、俯向うつむいて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「不幸でもコーコーでもいワ。もつとおいしいもの食べさしておれ、え、おツさん。」
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
「何事もこれ食うためだ。が、どっちでも可いたって、はばかりながら雪代さんの顔はめさせもしますまい。食うとなりゃ、蟹の面だ。ぐつぐつぶくぶくと煮えて、ふう、ああ、おいしそうだ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)