損得そんとく)” の例文
子供はその生れる境遇きょうぐうによって、非常な損得そんとくをする。しかし父親だって、運命のもとにあえぎあえぎ生きているのだから致し方もない。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
「君、あれは本当に校長がにくらしくつて排斥するのか、ほか損得そんとく問題があつて排斥するのか知つてますか」と云ひながら鉄瓶の湯を紅茶々碗のなかした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かんがえると、このときまで、あたまなかにあった、商売上しょうばいじょうのことや、一しん損得そんとくなどということが一しゅんにのごとくんでしまって、ただなかあかるくなるのが
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は、まだ損得そんとくや姻戚關係の爲めに結婚しようとするロチスター氏の計畫に、非難がましいことを何も云はなかつた。それが彼の意向いかうなのだと初めて知つた時、私は驚いた。
好い氣持だよ。彼處には何百人といふ人間が、彼の通りぎつしり詰まつてるが、奴等——と言つちや失敬だな——彼の人達には第一批評といふものが無い。損得そんとくの打算も無い。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
腹が立つたら、出かけて行つて、なぐり合ふ方が本当だ。罵られて黙つて引込んでゐるのは文士位のものだ。しかし、これも損得そんとくを考へてゐるのだと思へば、別に問題にするにも当らないけれど……。
批評 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
こっちに損得そんとくはない——と思った。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、商売しょうばいですから、しいものでもかねになれば手放てばなしますが、生涯しょうがいはいらないとおもうものがありますよ。そんなときは損得そんとくをはなれて、わかれがさびしいものです。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「冗談云つちや不可いけません。さう損得そんとくづくで、痛快がられやしません」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おんなひとは、おじさんが、損得そんとくをわすれて、いってくれるこころがわかったので、おもわず感激かんげきして
ひすいの玉 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それをおおきくなってから、すこしの損得そんとくで、兄弟きょうだいげんかをしたり、たがいにゆききしないものがあれば、またなかには、大恩だいおんのある、母親ははおやをきらって、よせつけないものがあるといいますから
煙と兄弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)