接穂つぎほ)” の例文
旧字:接穗
接穂つぎほなく腕組みして黙ってしまっていた杉大門は、永いこと何をかブツブツ口小言をいっていたが、やがてグイと顔を持ち上げると
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それは最初こそ、彼には楽しい想像の接穂つぎほとしても親まれたが間もなくするうちに、それはおそろしい恐怖の予言のように思われはじめた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
二人は又接穂つぎほなさに困つた。そして長い事もだしてゐた。吉野はう顔のほてりも忘られて、酔醒よひざめの佗しさが、何がなしの心の要求のぞみと戦つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼はお延に言葉をかけようとして、接穂つぎほのないのに困った。お延も欄干らんかんに身をせたまますぐ座敷の中へ戻って来なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まして、お芳は、もともと不自然な、しかも、ゆさぶってみるにはまだあまりに早すぎる接穂つぎほでしかなかったのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
が、二葉亭は「イヤ、最う断念あきらめた!」と黙り込んでしまったので、この上最早言葉の接穂つぎほがなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
すぐこっちに話の接穂つぎほが無くなってしまう場合も多く、それにああいうご勉強家のことですから、お邪魔しましても、何かお妨げするような気もいたしますので
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
幸子も接穂つぎほがなく、黙ってしまったのであったが、妙子が云うように、この気楽そうな鼾を聞いては、明日の会見をそんなに気に懸けているようには思えないのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
果樹や花の木の新種というものは、実をもいで来ていて生やすよりは、台木だいぎを見つけてそれに接穂つぎほをするほうが早く成長する。そしてその台木には大ていは同種の木が用いられる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小歌が莞爾にっこりと笑った時だけ、不知不識しらずしらずの間に自分も莞爾にっこりと笑い連れて、あとはただ腕組するばかりのことだから、年の行かぬ小歌にはたえかね接穂つぎほなく、服粧なりには適応にあわず行過た鬼更紗の紙入を
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
父はまた、野菜作りばかりでなく、屋敷内に竹林を作り、果樹をふやし、花物を植えつけ、接穂つぎほをするなど、いろいろ計画を立てて実行した。茶の木も少しあった。煙草の少し作られたこともあった。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
いいなおしたる接穂つぎほなさ。おもてを背けて
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
接穂つぎほなく肯いているばかりの圓太郎だった。口へ運ぶ盃のお酒が苦そうだった。で、一、二杯、口にふくんですぐ下へ置いてしまった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
話の接穂つぎほがなくなって、手持無沙汰ぶさたで仕方なくなった時、始めて座蒲団ざぶとんから滑り落ちた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乃至ないしは長く忘れずにいるにしても、それを言い出すには余り接穂つぎほがなくてとうとう一生言い出さずにしまうというような、内から外からの数限りなき感じを、後から後からと常に経験している。
清子は、少し悪い事を言つたと気がついて、接穂つぎほなくこれも黙つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
相手の心持ちが量りかねてお艶は、接穂つぎほがなくなってしまった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)