かく)” の例文
小脇に弓矢をかかへしまま、側目わきめもふらず走り過ぎんとするに。聴水は連忙いそがわしく呼び止めて、「喃々のうのう、黒衣ぬし待ちたまへ」と、声をかくれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
やがて彼れ衣嚢かくしを探りいとふとやかなる嗅煙草かぎたばこの箱を取出とりいだし幾度か鼻に当て我を忘れて其香気をめずる如くに見せかくる、れど余はかねてより彼れに此癖あるを知れり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
のこし置しは不審ふしんなり追々吟味ぎんみに及ぶと言るゝ時下役の者そばより立ませいと聲をかくるに各々其日は下りけりかさねて大岡殿細川越中守の留守居るすゐを經て井戸源次郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婦人は内に入れば、貫一も渋々いて入るに、長椅子ソオフワアかくれば、止む無くそのそばに座を占めたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かくるうち姿は見えずナニ幾許いくらほど近いものかハアハア云つて此上あたりに休み居るならんト三人あざみながらのぼるに道人は居ず五六丁の間は屈曲をりまがりてもよく先が見えるに後影もなししやは近きを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)