はや)” の例文
柴紹さいしょうの弟なにがしは身も軽く、足もはやく、どんな所へでも身を躍らせてのぼるばかりか、十余歩ぐらいは飛んで行った。
私はアデェルのはやい耳を欺かなくてはならなかつた。今それはじつと耳を澄ましてゐるかも知れないのだ。
その時突然山ねこのようなはやさで一人の男が船具をよじ上ってゆくのが見られた。その男は赤い着物を着ていた。徒刑囚である。緑の帽子をかぶっていた。無期徒刑囚である。
猿は樹を飛び廻る事至ってはやく、夫婦と餓鬼ばかり棲んで群を成さずすこぶる捕えがたい。
いずれの地に行きたまふかと問ふに、これより椎葉山しいばやまに向ふなりと言ひて別れ、それよりみち無き断崖に登るを見るに、そのはやきこと鳥の如しといふ。話は少年の時小一より聞けり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若駒の馳せ狂ひて、後脚とももて水を蹴るときは、飛沫高くほとばしり上れり。そのはやき運動を、畫かく人に見せばやとぞ覺ゆる。左の方なる原中に一道の烟の大なる柱の如くあがれるあり。
こっちで彼の顔を見さだめるよりも、相手の眼ははやかった。侍は松明をかざしながら馬上で声をかけた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人一目して数行ともに下る者あり。真に倶に下るにあらず、ただ目はやきのみ。
そこへ私たちが乗り込んで来たので、眼のはやいお鎌はすぐに自分の店をぬけ出して、事の成り行きをうかがっていると、元八がドジを組んで私たちに調べられることになった。
この猴力強く動作はやく牙固ければ、敵として極めておそるべきも、幸いにその働き自身を護るに止まり進んで他を撃たず、その力ほど闘志多かったら、二、三百猴一組になって来るが常事ゆえ
「今あの岩の蔭に重太郎の隠れているのを見付けましたから、すぐ追掛おっかけて行ったのですが、彼奴あいつ中々足がはやいので、たちまち見えなくなってしまいました。残念なことをたです。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鶴と蟹とがどちらがはやいと相論じた、蟹が言うには何と鶴が言ってもおれが捷い、すなわち己が浜を伝うて向うに達する間に鶴に今相論じいる場所から真直に飛んで向うへやっと達し得ると言った
殊に科学捜査の発達しない此の時代には、眼のはやいのとこんの好いのが探索の宝である。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
眼のはやい彼は姫と采女との関係を決して見逃がさなかった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)