ぬき)” の例文
どの道、春廼舎の『書生気質』や硯友社連の諸作と比べて『浮雲』が一頭いっとうぬきんずる新興文芸の第一の曙光しょこうであるは争う事は出来ない。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
この若者はの数年後隣村の火事に消防に行つて身をぬきんじて働いたとき倉の鉢巻が落ちてつひに死んだ。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
つまり山岳が地をぬきんでて天に参する心持ちと、その崇高厳粛この世のものと思われぬ特質とが、こうした浄土図にふさわしい構成要素となったものにちがいない。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
ただ冒進ぼうしんの一事あるのみと、ひとり身をぬきんで水流をさかのぼり衆をてて又顧みず、余等つゐで是にしたがふ、人夫等之を見て皆曰く、あに坐視ざしして以ていたづらに吉田署長以下のたんやと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
懿文いぶん太子のこうずるや、身をぬきんでゝ、皇孫は世嫡せいちゃくなり、大統をけたまわんこと、礼なり、と云いて、内外の疑懼ぎくを定め、太孫を立てゝ儲君ちょくんとなせし者は、実に此の劉三吾たりしなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
聡慧そうけいなる者は落つれどしからざる者は落ちずとあるごとく、馬に取っては迷惑千万だろうが、その忠勤諸他の動物にぬきんでたるを見込み、特別の思し召しもて、主人に殉し殺さるるのだ。
とりわけ自己を批判するに極めて苛酷かこくな人の癖として十目の見る処『浮雲』が文章としてもまた当時の諸作に一頭いっとうぬきんずるにもかかわらず
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
露伴の初めて世間に発表した作は『都之花』の「露団々つゆだんだん」であって、奇思坌湧ふんようする意表外の脚色が世間を驚かしたが、雄大なる詩想の群をぬきんずるを認められたのは『風流仏』であった。
『八犬伝』が日本の小説中飛び離れてぬきんでている如く、馬琴の人物もまた嶄然ざんぜんとして卓出している。とかくの評はあっても馬琴の如く自ら信ずるところ厚く、天下の師を以て任じたのは他にはない。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)