手枕たまくら)” の例文
夜更よふけ過ぎの飮食に胃の不健全が手傳つて、何か知ら覺めたのちには思ひ出せない夢を、戀人の手枕たまくらに見て驚くのもこんな場合が多い。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「わが殿にも、いまのまに少しなと、うとうと手枕たまくらでもしておかれねば、お疲れがえますまいに」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見る人懵然ぼうぜんとして醉へるが如く、布衣ほいに立烏帽子せる若殿原わかとのばらは、あはれ何處いづこ女子むすめぞ、花薫はなかほり月霞む宵の手枕たまくらに、君が夢路ゆめぢに入らん人こそ世にも果報なる人なれなど
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
旅人の妻、大伴郎女の死した時、旅人は、「うつくしきひときてし敷妙しきたへの吾が手枕たまくらく人あらめや」(巻三・四三八)等三首を作っているが、皆この歌程大観的ではない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
やっと安息の場所をて、広縁ひろえんに風呂敷を敷き、手枕たまくらをして横になった。少しウト/\するかと思うと、直ぐ頭の上で何やらばさ/\と云う響がした。余は眼をいて頭上ずじょうやみを見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
朝寝髪われはけづらじうつくしき君が手枕たまくらふれてしものを (巻十一)
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「酒を持つて來て呉れ、酒を。」と言ひ付けて、やうやく氣が付いたやうに袴、羽織を脱ぎ棄て、襟垢の付いた平常ふだんの白衣を引ツ掛け、白い帶をグル/\卷きにして、コロリと横になると、手枕たまくらをして
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
玉を伸べたるはぎもめげず、ツト美津は、畳に投げて手枕たまくらした。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そよそよ風の手枕たまくらに、はや日數ひかずしけふの日や
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
手枕たまくらに細きかひなをさしいれて 芭蕉
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
手枕たまくらもひたせて病める身の
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
手枕たまくらかひなつき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
そよそよ風の手枕たまくらに、はや日数ひかずしけふの日や
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
たづねて見やれ思ひ寝の、手枕たまくら寒し置炬燵。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)