手合てあい)” の例文
昔から大道店だいどうみせに、酔払いは附いたもので、お職人親方手合てあいの、そうしたのは有触ありふれたが、長外套なががいとうに茶の中折なかおれひげの生えた立派なのが居る。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「弘法顔」という言葉は、自ら弘法を以て任じている場合にも使われるが、もしそんな手合てあいがあれば、必ず山師にきまっている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
もっともこの手合てあいの女、大抵悪摺わるずれしたる田舎出のものにあらざれば市中小商人こあきんどの娘にして江戸ツ児にはなき事なり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
髪はこの手合てあいにおさだまりのようなお手製の櫛巻なれど、身だしなみを捨てぬに、小官吏こやくにん細君さいくんなどが四銭の丸髷まるまげ二十日はつかたせたるよりははるかに見よげなるも
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
口では大層な事を言っていても、実際の生きた政治にはまるで自信が無いのだろうよ。あの手合てあいはね。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
なにしろ彼のような、一見インテリらしく、少しは教育もあり、自分の生まれのよさを喋々する手合てあいときたら、際限ない複雑な性格を装うことが上手なものだからね。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
今も昔もおなじことで、講釈場の昼席などへ詰めかけている連中は、よっぽどの閑人ひまじんか怠け者か、雨にふられて仕事にも出られないという人か、まあそんな手合てあいが七分でした。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「よし、こんな手合てあいに云ったところで、判らない、以後こう云うことをしないと云う一札いっさつって、追っぱらえ、うす汚いばばあや、へんな奴がいちゃ、せっかくの酒がまずくなるのだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
本職の猿は別物として、猿の末孫ばっそんたる人間にもなかなかあなどるべからざる手合てあいがいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
煙草たばこけむり。話声。彼真新しい欅の根株の火鉢を頻に撫でて色々に評価する手合てあいもある。米の値段の話から、六十近いちいさい真黒な剽軽ひょうきんな爺さんが、若かった頃米がやすかったことを話して
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ちぢれ毛の女の子にキッスされた話だの、たちまち長脇ざしを引っこぬいて十七人をたたき斬った話だのと、有りそうでその実有りもしない話に、こりゃ本当らしい話だと、うつつをぬかすような手合てあい
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ベルを押して、取次が出て来てからでも、真の在否のわからぬ手合てあいさえある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
どうせ、こんな手合てあい弁口べんこう屈伏くっぷくさせる手際はなし、させたところでいつまでご交際を願うのは、こっちでご免だ。学校に居ないとすればどうなったって構うもんか。また何か云うと笑うに違いない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「エ、りゃ色々な手合てあいが来てまさァ」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
猫の癖に運動なんていた風だと一概に冷罵れいばし去る手合てあいにちょっと申し聞けるが、そうう人間だってつい近年までは運動の何者たるを解せずに、食って寝るのを天職のように心得ていたではないか。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)