懸想けさう)” の例文
コルネエユは自分がモリエエル夫人に懸想けさうして居る事についてモリエエルが煩問して居るのだと解釈してモリエエルの前に懺悔をする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
跛足で眇目めつかちで、自分の身體一つしか持つてないこの男が、名主の祕藏娘に懸想けさうするとは、物事が少しどうかして居ります。
縱令よしやわれ等二人同じ女に懸想けさうすることあらんも、相鬪ふには至らざるべし。斯く言ひつゝ友は聲高く笑ひ、我首を抱きて戲れながらにいふやう。
古写本こしやほんの作者は、この悪魔の話なるものをうるがんの諷諭ふうゆだと解してゐる。——信長が或時、その姫君に懸想けさうして、たつて自分の意に従はせようとした。
悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
天守てんしゆ主人あるじは、御身おみ内儀ないぎ美艶あでやかいろ懸想けさうしたのぢや。もない、ごふちから掴取つかみとつて、ねやちか幽閉おしこめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宇治入道殿にさむらひける嬉しさといふはしたものを、顕輔卿懸想けさうせられたるに、つれなかりければ遣はしける。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
将門が迎へた妻は、源護の子の扶、隆、繁の中で、懸想けさうして之を得んとしたものであつた。然るに其の婦人は源家へ嫁すことをせずして相馬小次郎将門の妻となつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
幾多の恐ろしき暴風雨の後ある浜辺に漂ひ着いて一人の男に助けられ其の男の厚意によつて数年を暮す。するとその島の王がダネイに懸想けさうして手に入れようとしてもダネイは応じない。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
豊雄ここに迎へられて見るに、此の富子がかたちいとよく、三〇六よろづ心にたらひぬるに、かのをろち懸想けさうせしことも三〇七おろおろおもひ出づるなるべし。はじめの夜は事なければ書かず。
山の湯や懸想けさうびとめく髪ながの夜姿よなりをわかき師にかしこみぬ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
むろに絵の具かぎよる懸想けさうの子太古の神に春似たらずや
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
懸想けさう詩歌しいかとさかづきとを
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「伊八は六十近いくせに、死んだ女房の妹のお萬に懸想けさうして、うるさく言ひ寄るらしいが、お萬は若くて達者な按摩あんまたくの市とねんごろにしてゐる」
アルマンが「此処ここに居るのはわたしの良人をつとです」と云ふ一語に驚いてその男は逃げ去つた。又の若い諸侯がアルマンに懸想けさうして忍び寄つたのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そこで大殿様が良秀の娘に懸想けさうなすつたなどと申す噂が、愈々拡がるやうになつたのでございませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
只だ人々と我と相異なるは、彼は懸想けさうし我は懸想せざるのみ。我俗眼もて見れば、彼人は餘りに天人めきたり。されど天人は崇拜の對象とすべきならん。「アバテ」はいかに思ひ給ふといふ。
懸想けさうの痛みを忍び泣きぬ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「もう宜いよ。お前なんかと來た日にや、毎日三人か五人に懸想けさうしてゐるぢやないか。湯屋で一人、往來で一人」
假令よしやわれ男に生るとも、抱かば折るべき女には懸想けさうせざるべしといへり。われは覺えず失笑せり。想ふにサンタは話の理に墜つるを嫌ふ性なれば、始より我を失笑せしめんとて此説をなしゝならんか。
「吉三郎は相模者だと言つたが、實は下田の者さ。お濱に懸想けさうして江戸へ追つかけて來たが、お濱も滿更でなかつたんだらう、何べんも助けようとした位だから」
姪だと言つて居るが、あれは皆んな嘘で、五十過ぎの越前屋周左衞門が、年にも耻ぢずお前に懸想けさうして、引取つて妾にする氣だから氣を付けろ——と斯んなことが書いてありました