なつかし)” の例文
旧字:
余計に私なんざなつかしくって、(あやちゃんお遊びな)が言えないから、合図の石をかちかち叩いては、その家の前を通ったもんでした。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道家はひどくなつかしいのでそのほうへ歩いて往った。彼はべつにその家の中へ泊めてもらおうとは思わなかったが。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
して頭髪をも剃り落して、真黒な頭巾ずきんを被った。今迄何処か人なつかしそうな柔和であった眼は、けわしくなって、生徒に対する挙動まで荒々しくなったのである。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はその少女をなつかしげに抱えると、又ベットに帰り始めたのであった。私は思わず椅子から腰を浮かせた。
蝕眠譜 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
今日まで懕々ぶらぶら致候いたしさふらふて、唯々なつかし御方おんかたの事のみ思続おもひつづさふらふては、みづからのはかなき儚き身の上をなげき、胸はいよいよ痛み、目は見苦みぐるし腫起はれあがり候て、今日は昨日きのふより痩衰やせおとろ申候まをしさふらふ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
上野の停車場ステイションに着くと拝みたいほど嬉しくなります、そんななつかしい東京ですが、しばらく分れねばなりません。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もはや再びなつかしき懐き御顔も拝し難く、猶又前非の御ゆるしも無くて、此儘このまま相果て候事かと、あきらめ候より外無く存じながら、とてもとても諦めかね候苦しさの程は、此心このこころの外に知るものも
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なつかしい姿を見るにつけても、お蔦に思較べて、いよいよ後暗うしろめたさに、あとねだりをなさらないなら、久しぶりですから一銚子ひとちょうし、と莞爾にっこりして仰せある、優しい顔が、まぶしいように後退しりごみして、いずれまた
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)