はばかり)” の例文
小六にもちょうどそれと同じはばかりがあったので、いられるかぎりは下宿にいる方が便利だと胸をきめたものか、つい一日一日と引越をさきへ送っていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちらちらべに色のが交って、咲いていますが、それにさえ、貴方あなた法衣ころもの袖のさわるのは、と身体からだをすぼめて来ましたが、今も移香うつりががして、はばかり多い。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彩牋堂主人とは有名な何某なにがし株式会社取締役の一人何某君の戯号ぎごうである。本名はいささかはばかりあればここには妓輩ぎはい口吻こうふんしてヨウさんといって置こう。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かかる人の書いたものを『ホトトギス』へでも載せてやったら嬉しがるだろうと思いかたがた入御覧候。文中小生の事のみ多く自分よりいえば夫がはばかりに候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「いえ、かうしてをると、今にぢきなほります。はばかりですがおひやを一つ下さいましな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
海保漁村の墓誌はその文が頗る長かったのを、豊碑ほうひを築き起して世におごるが如きじょうをなすは、主家に対してはばかりがあるといって、文字もんじる四、五人の故旧が来て、胥議あいぎして斧鉞ふえつを加えた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
別紙はばかりながら御とゞけねぎ上候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
精神病で心のはばかりが解けたからだとその理由までも説明した。兄はことによると、あによめをそういう精神病にかからして見たい、本音を吐かせて見たい、と思ってるかも知れない。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まくり手には、鉄の如意にょいかと思う、……しかも握太にぎりぶとにして、たけ一尺ばかりの木棍ぼくこんを、異様に削りまわした——はばかりなく申すことを許さるるならば、髣髴ほうふつとして、陽形ようけいなるを構えている。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼のあだかも三日続けてきたれる日、その挙動の常ならず、ことには眼色凄まなざしすごく、はばかりも無く人を目戍まもりては、時ならぬにひと打笑うちゑむ顔の坐寒すずろさむきまでに可恐おそろしきは、狂人なるべし、しかも夜にるをうかが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
前刻さっきはばかりへいらっしゃいます、廊下でお目にかかりましたよ。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もしはばかりながらお布施ふせ申しましょう。」
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)