悪名あくみょう)” の例文
旧字:惡名
わたしのように四十年間、悪名あくみょうばかり負っているものには、他人の、——殊に幸福らしい他人の不幸は、自然と微笑を浮ばせるのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むしろ生きて、悪名あくみょう罵詈ばり、迫害、失脚、何でも殿に代って、身にひきうけんと藤吉郎は所存いたすが……各〻にはまた、お考えがちがいましょうか
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
院が最後まで秘密の片はしすらご存じなしにおかくれになったことでも、宮は恐ろしい罪であると感じておいでになったのに、今さらまた悪名あくみょうの立つことになっては
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかるを手前から疑念を掛けられ、悪名あくみょうを附けられ、はなはだ迷惑致す、貴様は如何いかゞ致す積りか
たちまち内務省からは風俗壊乱、発売禁止、本屋からは損害賠償の手詰てづめの談判、さて文壇からは引続き歓楽に哀傷に、放蕩に追憶と、身に引受けた看板のきずに等しき悪名あくみょうが、今はもっけのさいわい
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人さまにゃアあんなもんをどうなッてもよさそうに思われるだろうけれども、親馬鹿とはうまく云ッたもンで、あんなもんでも子だと思えば、有りもしねえ悪名あくみょうつけられて、ひょッと縁遠くでもなると
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこで伊藤の亭主の足もとへ付け込んで、百両よこせなどと大きく吹っかけて、とうとう七十五両をまきあげて行ったというわけで、別にゆすりとかかたりとかいう悪名あくみょうをきせることも出来ないのです。
半七捕物帳:42 仮面 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さすれば、いかなる悪名あくみょう呪詛じゅそも、藤吉郎が負うべきで——また自身、そう決意いたしておりますので
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神将 黙れ! か弱い女をいじめるばかりか、悪名あくみょうを着せるとはしからぬやつじゃ。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
但しは無慈悲を通す気か、気違だの騙りだのと人に悪名あくみょうを付けてけえって行くようなむごい親達から、金なんぞ貰う因縁が無えから、先刻さっきの五十両をけえそうと捷径ちかみちをして此処こゝに待受け
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
金「今本郷町の桂庵婆アがお筆さんに泥棒をしたって悪名あくみょうを附けやアがった」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
出たって他人ひとの物を取るようなお筆さんじゃアねえのに、そんな悪名あくみょうを付けられてたまるものか、己の店子に間違いが有っちゃア此の儘に捨置かれねえ、何処どこまでも詮議をなけりゃアならねえ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どうも身に覚えのない濡衣ぬれぎぬたもとから巾着が出て板の間の悪名あくみょうを付けられたからは、おとっさんが物堅いから言訳を申しても立たない、たれにも顔を合されないからいっその事一と思いに死のうというので
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)