徂徠そらい)” の例文
子供の時聖堂せいどうの図書館へ通って、徂徠そらい蘐園十筆けんえんじっぴつをむやみに写し取った昔を、生涯しょうがいにただ一度繰り返し得たような心持が起って来る。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
徂徠そらいにして白石の如く史を究めたらんには、其の史眼は必ず白石の上に出づべし。『南留別志なるべし』を一読して知るべし。頼山陽を
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その雲の国に徂徠そらいする天人の生活を夢想しながら、なおはるかな南の地平線をながめた時に私の目は予想しなかったある物にぶつかった。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一、徳川時代の儒者にて見識の高きは蕃山ばんざん白石はくせき徂徠そらいの三人を推す。徂徠が見解は聖人を神様に立てて全く絶対的の者とする。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一種の驚怖は始終富之助の胸を徂徠そらいした。彼は嘗つてかう二人して居た時に、彼から強く毆打されたことを記憶してゐる。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
大雅堂たいがどう柳下人物りゅうかじんぶつの掛物を二両二分、徂徠そらいの書、東涯とうがいの書もあったが、誠にがない、見るに足らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
平時の英国は、書生が来ようが商人がはいろうが、美人でも醜婦でも、学者でも泥棒でも、出入全く自在でさながら風の去来し雲の徂徠そらいするに任せあるがごとくである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
関東の学者、道春以来、新井、むろ徂徠そらい春台しゅんだいらみな幕府にねいしつれども、その内に一、二箇所の取るべき所はあり。伊藤仁斎いとうじんさいなどは尊王の功もなけれども、人に益ある学問にて害なし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
徂徠そらい先生その『風流使者記』中に曰く「風流使者訪名山」と。
山を讃する文 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
だが、強硬な反対論は、荻生徂徠そらい
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蕪村が最も多く時代の影響を受けしは漢学ことに漢詩なりき。かつ漢学は蕪村が少年の時にむしろ隆盛を極め、徂徠そらい一派は勃興したるなり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
澄み渡る秋の空、広き江、遠くよりする杭の響、この三つの事相じそうに相応したような情調が当時絶えずわがかすかなる頭の中を徂徠そらいした事はいまだに覚えている。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつ漢学は蕪村が少年の時にむしろ隆盛を極め、徂徠そらい一派は勃興したるなり。蕪村は十分に徂徠の説を利用し、もって腐敗せる俳句に新生命を与えたるを見る。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
八年まえ大学を卒業してから田舎いなかの中学を二三箇所かしょ流して歩いた末、去年の春飄然ひょうぜんと東京へ戻って来た。流すとは門附かどづけに用いる言葉で飄然とは徂徠そらいかかわらぬ意味とも取れる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卒業の後東西に徂徠そらいして、日に中央の文壇に遠ざかれるのみならず、一身一家の事情のため、ほしいままに読書にけるの機会なかりしが故、有名にして人口に膾炙かいしゃせる典籍も大方は名のみ聞きて
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
離れて合うを待ちび顔なるを、いて帰るを快からぬを、旅に馴れて徂徠そらいを意とせざるを、一様につかねて、ことごとく土偶どぐうのごとくに遇待もてなそうとする。こそ見えね、さかんに黒煙くろけむりを吐きつつある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
徂徠そらいかな」と和尚おしょうが、首を向けたまま云う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)