強奪ごうだつ)” の例文
いま隣の部屋に、左膳の一味が坤竜強奪ごうだつの秘策をらしていることを知っているから、栄三郎がこのあたりに長居をしては危険である。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
地位や権勢を利用して他人の所有物を強奪ごうだつするのでは、ふたもない野暮やぼな話で、自慢にも何もなりはしない。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「君も賛成者のうちに名が見えたじゃないか」と胡麻塩頭ごましおあたま最前さいぜん中野君を中途で強奪ごうだつしたおやじが云う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
九万円の金魂は、手下の赤ブイの仙太を使って、銀座の花村貴金属商から強奪ごうだつさせた。仙太が逃げ帰ってくると、煉瓦大れんがだいの其の金塊は巻き上げ、仙太の身柄は身内の外に隠した。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「悪いやつをなぐるのはあたりまえだ、おれの家の小僧こぞうをおどかして毎朝豆腐とうふ強奪ごうだつしやがる、おれは貧乏人びんぼうにんだ、貧乏人のものをぬすんでも助役の息子むすこならかまわないというのか」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その強奪ごうだつの仕方があまりに大胆で大袈裟おおげさで、しかもさえぎる人があっても人命をあやめるようなことはなく、衣類や小道具などには眼もくれず、まとまった金だけを引浚ひっさらって悠々として出て行く。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
覆面ふくめん盗賊とうぞく今暁こんぎょう渋谷の××銀行を襲う、行金こうきん強奪ごうだつして逃走す
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「仙太のやつ、ここで強奪ごうだつったのじゃないか。だから金貨が道にこぼれている……」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こうなると、奇妙な因果関係いんがかんけいで、山城守が喬之助の首を見るためには、どうあっても神保造酒の助けを得ねばならぬ。神保の助けを得るためには、どうあっても園絵を強奪ごうだつせねばならぬ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕は中途で鏡台のそばを離れて、美くしい島田髷しまだまげをいただく女が男から強奪ごうだつする嘆賞の租税をまぬかれたつもりでいた。その時の僕はそれほどこの女の虚栄心にびる好意をたなかったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あいつは破廉恥罪はれんちざいをおかして平気でいます、人の畑のいもを掘る、駄菓子屋だがしやの菓子をかっぱらう、ついこのごろ豆腐屋の折詰おりづめ強奪ごうだつしてそのために豆腐屋の親父おやじ復讐ふくしゅうをして牢獄ろうごくに投ぜられた始末
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)