ふっ)” の例文
書窓しょそうから眺めると、灰色はいいろをした小雨こさめが、噴霧器ふんむきく様に、ふっ——ふっと北からなかぱらの杉の森をかすめてはすいくしきりもしぶいて通る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その蚊帳のような、海のような、青いものが、さらさらと肩にかかる、と思うと、いつか我身はまた框に掛けつつ、女の顔がふっと浮いて、空からじっと覗いたのである。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつそのくされ、思う存分書いて見よか、と思ったのは先達せんだっての事だったが、其後そのご——矢張やっぱり書く時節が到来したのだ——内職の賃訳がふっと途切れた。此暇このひまあすんで暮すは勿体ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
惣身そうみにうんと力をむれば、さしもの毒竜ふっつと
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
北から風が吹いて居る。田圃たんぼむこうの杉の森をかすめて、白い風がふっふっ幾陣いくしきりはすに吹き通る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……余波なごりが、カラカラとからびたきながら、旅籠屋はたごやかまち吹込ふきこんで、おおきに、一簇ひとむら黒雲くろくもの濃く舞下まいさがつたやうにただよふ、松を焼く煙をふっと吹くと、煙はむしろの上を階子段はしごだんの下へひそんで
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山颪やまおろしふっが消えた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)