帰宅かえり)” の例文
旧字:歸宅
お浪との会話はなしをいいほどのところにさえぎり、余り帰宅かえりが遅くなってはまた叱られるからという口実のもとに、酒店さかやへと急いで酒を買い
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「それから、園長はときどき夜中の一時や二時にお帰宅かえりのことがあるそうですが、それまでどこで過していらっしゃるのですか」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分の足音を聞いただけでさいは飛起きて迎えた。たすくを寝かし着けてそのまま横になって自分の帰宅かえりを待ちあぐんでいたのである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
たまにお帰宅かえりの時分を外したからって、何も女中を寄越して恥をかゝせるには当りませんわ。今夜は家人数うちにんずばかりでなく目黒のあによめが来ていましたよ。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
…………小松原は、俯向うつむけに蒼沼に落ちた処を、帰宅かえりのほどが遅いので、医師せんせいが見せに寄越よこしした、正吉に救われた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宿には安兵衛、勘平の両人はいうまでもなく、吉田忠左衛門の田口一真まで来合せて、彼の帰宅かえりを待っていた。気早の勘平は、足音を聞くや、縁先まで駈けだしてきて
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「さようか。それもよかろう。が、帰宅かえりのほども知れまい。雨催いじゃ。守人殿、かさを持たれよ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
荒神様へまいるもよい。ついでにここを通ったらば、霎時しばらくこの海岸に立って、諸君が祖先の労苦をしのんでもらいたい。しかし電車で帰宅かえりを急ぐ諸君は、暗い海上などを振向いても見まい。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いよいよお帰宅かえりないならば、私も腹を極めてゐる。男がようても、器量があつても、深切のない人が、どうなるものぞと思ふても、また気にかかる門の戸が、開いたは確かに腕車くるまの音。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「実は昨日の昼過に来る積りでホテルから電話をかけたんだが、京都へ往診に出て帰宅かえりおそいというもんだから、ついこう出発間際になったのさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あまり帰宅かえりが遅いのでてっきり小梅に泊ることと思い、昨夜ゆうべは寒さも格別だったから早く締りをして先に寝たものらしいが、年ごろの娘がそう更けてから夜道を帰って来るとも思われないから
目的物が出るはずの、三の面が一小間切抜いてあるので、落胆がっかりしたが、いや、この悪戯いたずら、嬢的にきわまったり、と怨恨うらみ骨髄に徹して、いつもより帰宅かえりの遅いのを、玄関の障子からすかして待構えて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時孫娘は再び老人の袖を引いて帰宅かえりを促した。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ところがその重役の方はねてこの話を承知して居りました。そこで帰宅かえりの晩い時には彼処あすこは通らないで、廻り道をすることにしていましたのに、主人なぞにも能くあります。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
するなッて事よ、何もはにかもうッて年紀としじゃあねえ。落語家はなしか言種いいぐさじゃあねえが、なぜ帰宅かえりが遅いんだッて言われりゃあ、奴が留めますもんですから、なんてッたような度胸があるんじゃあねえか。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)