小枝さえだ)” の例文
衣服きものを剥がれたので痩肱やせひじこぶを立てているかきこずえには冷笑あざわらい顔の月が掛かり、青白くえわたッた地面には小枝さえだの影が破隙われめを作る。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
日は全くりしほどに山深き夜のさま常ならず、天かくすまで茂れる森の間に微なる風の渡ればや、樹端こずゑ小枝さえだ音もせず動きて
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「貴殿が助けようとなされた乙女は、丹生川平の郷民達にとっては、讐敵にあたる白河戸郷の、郷の長の娘の小枝さえだという乙女で」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分の立場として、ご対面はゆるされませんが、何ぞ、叡慮えいりょに達したい御一念があるなら、道の桜の小枝さえだに、お歌でも書いて結んでおかれてはいかがですか。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この笛は、祖父忠盛ただもりが、鳥羽院から賜わり、経盛が譲り受けた後、敦盛が名うての上手であったところから、敦盛の手に渡り愛用されていた。小枝さえだと名づけられた笛である。
また「遅速おそはやをこそ待ため向つの椎の小枝こやでの逢ひはたげはじ」(巻十四・三四九三)と或本の歌、「椎の小枝さえだの時は過ぐとも」のしい思比シヒ四比シヒと書いているから、ならではあるまい。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
須臾しゅゆいのち小枝さえだに托するはかない水の一雫ひとしずく、其露を玉と光らす爾大日輪!
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つぎつぎにとまれば深し小枝さえだの揺れひたすがりつつ燕が四五羽
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わがのぼる脚榻きやたつ昨夜よべの霜おけり高き小枝さえだに柿の實ちぎる
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
深山樒みやましきみ小枝さえだにも
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
「歌道の家柄、冷泉為相れいぜいためすけ、その末女の小枝さえだというのがこの俺の許婚だ。俺は許婚の小枝と一緒に旅をしていて捕えられたのだ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小枝さえだと名づけられた高倉宮愛蔵の一管である。「これは宮さまご秘愛の笛、余りに心かれてのご失念か、思い出されればお嘆きあるに相違なし」と咄嗟とっさに笛を掴むと宮のあとを追った。
困るんでさ、まったく、私ときたら、男のくせにやきもちやきでね。……まあ、お寄んなさいな。寄らなければいい。こんど、お友達のお鈴さん、小枝さえださん、みな様がお買い物にみえたら、たんとお喋舌しゃべりを
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云うのはせっかくに白河戸郷の、郷長むらおさの娘の小枝さえだという乙女を、奪って小脇に抱えている。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小枝さえだ蝉折せみおれと名づけられた古今の名笛で、笛の名人とたたえられたため宮がこの笛を受けたものだが、中でも蝉折は宋から渡来して朝廷に献じられたもので、蝉の形をした竹の節があり
この郷の長であると共に、この郷の神殿の祭司である、白河戸将監しらかわどしょうげんの一人娘の、小枝さえだというのがこの乙女であったが、そう云うと侍女達を従えて、曠野の方へ漫歩をつづけた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)